中泉拓也(関東学院大学 経済学部教授)

 英国のEU離脱(ブレキジットBrexit)投票もまさか離脱が採択されるとは思いませんでしたが、トランプ大統領の誕生はまた更に予想を外しました。さすがにここまで外すと、ショックを通り越してかえって冷静に頭が働いてきます。そこで分析をし、その原因を考えてみました。

1.トランプ候補者に投票した人々


 トランプ候補に投票した層として、メディアでよく指摘されているのは、白人男性、中でも低学歴の方です。ペンシルバニア州やミネソタ州など、かつて米国の製造業の中心地でこれまで民主党への支持が堅固だった地域でトランプ候補が多数を獲得し、大統領就任を決定づけました。その意味でも白人男性のトランプ大統領への投票の影響が強かったといえます。

 また、CNNやニューヨークタイムズには、投票者の属性調査が掲載されていますが、それによるとやや意外な結果として、白人女性もやはりトランプ候補への投票者が多いことが示されています。トランプ候補には様々な女性スキャンダルが取りざたされましたが、それが強い逆風とはなっていなかったわけです。

 更に、アフリカ系の人々の1割にも満たない投票率に対して、メキシコ国境に壁を作るとまで言われたヒスパニック系の3割もが、トランプ候補に投票しています。これは、現在米国に滞在するヒスパニック系にしてみれば、新たに移民が増えて自分の生活が脅かされるより、移民を制限した方が自分たちにとって有利と考えたのかもしれないと言われています。
6月7日、トランプ氏の選挙運動に参加した長女イバンカさんとジャレッド・クシュナー氏の夫妻(左)
6月7日、トランプ氏の選挙運動に参加した長女イバンカさんとジャレッド・クシュナー氏の夫妻(左)

2.トランプ候補者への投票者とEU離脱に投票した人々の共通点


 以上が、今回の大統領選挙に特徴的な点です。そして、実はEU離脱に投票した人々と共通の属性があるのです。そもそもEU離脱とトランプ候補支持は、ともに反グローバルという共通項があり、投票者にも共通項があって不思議ではありません。本稿ではその共通項に注目したいとおもいます。

 それは年齢構成です。なんと共に45歳未満の有権者では、ヒラリークリントンやEU残留への投票者が過半数なのに対して、45歳以上ではEU離脱とトランプ候補へ投票がともに過半数となるのです。投票者は国も違う全く別の人々なのですが、年齢はともに45歳で別れるのです。
(米国大統領選はCNN、英国の国民投票にはLord Ashcroft Pollsのデータより著者作成)


 CNNとBBCも詳細なグラフを示していますが、そこでも18歳から44歳までと45歳以上で反対、賛成が入れ替わっていることわかります。


3.トランプ候補者への投票の理由


 EU離脱やトランプ候補への指示について、よく言われているのは、反グローバル主義や、経済格差の広がりへの反発です。国際貿易の進展によって、米国や英国の製造業は何十年もの間打撃を被ってきました。それに対してノーを突きつけたというのが説明です。実際、EU離脱はEUという大きな経済圏からの離脱を意味しますし、トランプ候補もメキシコ国境に壁を作ると言った、保護主義的な演説を多く行なっています。

 しかしながら、こういった説明は、年齢別の違いの説明としては不十分ではないでしょうか。というのは、むしろこれから働こうとする若い人は、グローバル化による強い競争にさらされます。それに対して、反対した高齢の人々は、これから年金をもらおう、既にもらっている人たちですから、若い人に比べて、移民との競争や海外への工場移転による雇用の減少のインパクトはむしろ弱まります。

 逆に、グローバル化がもたらす富が年金や社会保障の財源になりますから、EU離脱や保護主義で、社会保障の悪化や年金の減額のリスクが増加すると考えられます。実際、トランプ候補はオバマ大統領が導入した貧困層向けの医療保険(オバマケア)の見直しに言及していて、これからまさに医療保険を必要としている低所得層の高齢者に打撃を与える格好になっています。

 こうみると、一般に言われている反グローバル主義が理由だとすると、この表の年齢は逆になっても不思議ではありません。では、どういうことが考えられるのでしょうか。

 インターネットが普及してすでに20年、インターネットを使いこなし、世界中の人々とリアルタイムに交信することが当たり前の世代には反グローバルという言葉は非常に奇異に感じるのではないでしょうか。グローバル化や世界の一体化というものは、そもそも受け入れるという以前に、既に当然のものになっていると思います。

 AIやドローン、iPS細胞や自動車の自動運転といった革新的な技術の実用化や普及さえ間近になった現在、保護主義といった言葉があまりにもレトロな方法に映るのではないでしょうか。そういった若い世代にとっては、保護主義や反グローバリズムは、仮にそれで恩恵があっても賛同し難いと思います。

 それに対して、そういった急激な変化を望まない世代が、その流れに反対を投じたのではないでしょうか。ヒラリークリントン候補や英国のキャメロン元首相が明るい未来を説けば説くほど、そういった流れについていけない人々にとっては、むしろ恐怖が増長されてしまったのかもしれません。

 当然、過去における強い英米時代の成功体験、ノスタルジー、高齢化による所得格差の拡大... 可能性は色々考えられるでしょう。しかしながら、単なる反グローバルや保護主義、エスタブリッシュに対する反抗だけではないのではと思います。


4.再チャレンジの機会を


 そもそも、現代の市場経済は、機会の平等を厳格に保障するのが理念です。反面、結果の平等を追求しすぎると社会主義になってしまうので、どうしても格差が出来てしまいます。そういった結果の差は、年をとるとともに拡大するのも必然です。そして、成功できなかった年配の層が社会に対して不満を持つというのも十分納得できます。そういう意味で、これは、アメリカやイギリスの話だけでなく、現代の社会全体に発生しうる問題だと考えられるでしょう。

 この対策として、人生のスタートラインを何度も設けるのは有効だと思います。再チャレンジで機会の平等をより年齢が高くても保障しようとする訳です。拙稿、高齢化社会へのヒント「どうせなら、楽しく生きよう」でも述べましたが、東大経済学部教授の柳川範之先生が提唱されている40歳定年制は、こういった点でも一つの対策となるのではと思います。


【参考記事】
■経済学部教員コラム vol.83 2016.09.12経済学科 中泉拓也「柳瀬さんと小網代との出会い」
■経済学部教員コラム vol.47 2014.09.15経済学科 中泉 拓也「藤野さん講演会」
■オリバー・ハート教授のノーベル経済学賞受賞によせて(中泉拓也 関東学院大学 経済学部教授)
■1票の価値は百万円?(中泉拓也 関東学院大学 経済学部教授)
■高齢化社会へのヒント「どうせなら、楽しく生きよう」(中泉拓也 関東学院大学 経済学部教授)

中泉拓也 関東学院大学 経済学部教授