堤未果(国際ジャーナリスト)

 2016年11月8日。第45回アメリカ大統領選は、日米のマスコミ報道を翻し、共和党のドナルド・トランプが勝利した。

 この結果を見たある独立メディアの記者は私にこう言った。

「まるで旧ソ連支配体制崩壊のきっかけとなった『グラスノスチ(情報公開)』を見ているようだ」

 国内の大手有力メディア59社中57社がヒラリー側についたにもかかわらず、ヒラリーは激戦州の大半を失い敗北、上下院も共和党に取られる結果となった。

〈トランプのような、女性蔑視で下品極まりない差別主義者が大統領になるなど、悪夢でしかない〉

 そんなヒラリー支持者たちの悲痛な叫びと、カナダ移住サイトがパンクしたというニュースを見て、同じようにヒラリー優勢を流し続けた日本のマスコミを信じた人々は、首をかしげているだろう。

支持者に手を振るヒラリー・クリントン氏(左)と、
肩に手をかけるクリントン元大統領=11月9日、ニューヨーク(AP)
 だが今回の選挙戦はトランプ勝利よりヒラリーの敗因に、商業マスコミと大衆の温度差に、その本質が隠されている。

 「嫌われ者対決」と呼ばれた二者択一で、「排外主義」への嫌悪感より大きな争点となったのは、超富裕層が政治を金で買い、自分たちだけが儲かれば良いという「金権政治」への怒りだった。そしてまた、過去数十年で「株式会社国家」と化したアメリカで、足下が崩れてゆくことに気づかずに、大衆への影響力を過信していた、企業マスコミの敗北でもあった。

 そもそもこの選挙戦自体、序盤から異色だった事を思い出して欲しい。既存の2大政党の外から来た候補者2人が国民の支持を集め「サンダース・トランプ現象」を生み出した。その背景にあるのは、過去数十年アメリカが推し進めてきた「グローバル資本主義の副作用だ。

 NAFTAなどの自由貿易で生産拠点が海外に移り国内の2次産業が疲弊、かつて中流層や大卒者が得ていた所得は1%層株主の懐に入り、国内に還元される税金の大半がタックスヘイブンへと消えてゆく。彼らは法外な資金力で政治家を買収し、アメリカの政治は金で買える投資商品となった。

 そこで彗星のように現れて「超富裕層だけが儲かる自由貿易条約」に反対し、「政治と業界の癒着を断ち切る」と訴えたオバマ大統領に期待がかけられたが、蓋を開けると彼もまた、巨額の政治献金への見返りに、グローバル企業とウォール街を利する政策をせっせと実行、対テロ戦争を拡大し、NAFTAのステロイド版と呼ばれるTPPを推進する始末だ。

 1%層は潤ったが格差は拡大。フードスタンプ受給者4300万人、労働人口の4割が職につけず、学資ローン債務は1兆ドルを超え、ホームレスシェルターには人があふれ、頼みの綱だったオバマケアも肝心の薬価と保険料が上がり、来年さらに約25%の値上がりが来るという。