安倍宏行(Japan In-depth編集長)

 駆け出しの政治部記者の時、デスクが言ったものだ。「いいか、政局原稿は断定しちゃあだめだぞ」。なんだ、それ?当時はそう思ったものだ。取材をちゃんとして確度の高い記事を書くのが記者だろう。生意気にもそう思った。が、実際に選挙を取材すると、「絶対」はゼッタイない、ということが良く分かった。つまり、選挙は「ミズモノ」なのだ、ということだ。開票結果は最後の最後までどっちに転ぶかわからない。誰が勝者になり、誰が敗者になるか。まして「激戦区」をおいておや、だ。

 ただ、実際に選挙区を歩いて有権者の反応を取材していると、いわゆる「流れ」や「風」と言ったものを感じることは出来る。それは刻一刻と変わっていく。投票日前日、マイクを使っての最後の街頭演説会が終了する午後8時の聴衆の熱気で、その候補が勝つか負けるか、わかるものである。筆者はこの夏の東京都知事選は選挙期間中、主要三候補の街頭演説を初日から取材したが、途中から風は明らかに小池氏に吹き始めていた。現場で身をもって体験した。
ワシントン・ポストなどが並ぶ米国の新聞自動販売機
ワシントン・ポストなどが並ぶ米国の新聞自動販売機
 さて翻って、アメリカ大統領選だ。巷ではアメリカ主要メディアが何故予測を大きく外したのか、その原因を探る、と言った記事が溢れている。なにせ日本でおなじみ、クオリティペーパーのニューヨーク・タイムズは選挙終盤(10月末)にヒラリー勝利の確率は92%、ワシントン・ポストに至っては98%などと打った。そもそも選挙で「勝率」を予測する習慣は日本にはないが、どんな根拠でこの予測をたたき出したのか大いに興味がある。大方、世論調査の数字から予測したのだろうが、それだけでは正確な予測は出来ないと思うのだが。

 日本の選挙情勢取材について紹介すると、小生はテレビ記者だったからテレビのケースだが(新聞も大体同じ)、まずはキー局の記者は激戦区(注目選挙区)に飛び、ローカル局の記者とペアで各候補者の選挙対策本部を取材する。そして各候補者の市区町村別の予想得票数を予測し、本社に持ち帰って過去のデータと突っつき合わせ、コンピューターで最終当確を判定するのである。いわゆる「判定会議」は投開票日の3日前くらいまで数回開かれ、確度を高めていく。

 テレビ局の選挙特番は大体夜8時開始だが、その瞬間に各局当確人数と顔ぶれが出るのはそうした取材の裏打ちがあってのことだ。その後開票が進むにしたがって、出口調査の結果も加味し、激戦区の投票状況を見極めながら、他局に先駆けて一秒でも早く当確を打つことを至上命題とするのだ。