古森義久(産経新聞ワシントン駐在客員特派員)

「狙いは日中二国間協議へ引き出すこと」


 やはり日本の国難と呼ばざるをえないだろう。最近の尖閣諸島(沖縄県石垣市)への中国の一大攻勢の日本にとっての意味である――。

 今年8月に入ってのわが尖閣諸島海域への中国の侵入が、急激に勢いを増してきた。「中国海警」の武装艦艇がこれまでにない規模と頻度の威圧的な攻勢で日本の領海、そしてその立ち入りには日本側の了解を得るべき接続水域に連日のように入ってくるのだ。
ベトナム沖210キロの南シナ海で、ベトナム海上警察の船(手前)と対峙する中国海警局の船=2014年5月14日(ロイター)
ベトナム沖210キロの南シナ海で、ベトナム海上警察の船(手前)と対峙する中国海警局の船=2014年5月14日(ロイター)
 中国海警の艦艇はその数も一時に十数隻と、これまでの水準をはるかに超え、さらに数百隻もの「中国漁船」を従えている。この「漁船」の実態は民兵なのだ。そのうえにすぐ背後には中国人民解放軍の艦艇や航空機、ミサイルが控え、軍事力の脅威を誇示する。日本の法治はもちろんのこと、国際的規範をも踏みにじる無法な行動である。

 中国のこのエスカレーションの究極の目的は尖閣諸島の奪取だろう。日本固有の領土に対し中国側は一方的に領有権を主張しているからだ。日本の領土を暴力的手段で奪おうとする中国の行動の前例のない拡大と過熱は、日本にとっては戦後でも珍しい国難だといわざるをえない。

 だが中国側はなぜ、この特定の時期に特定な方法でこうした新攻勢に出てきたのか。当面の動機や目標は何なのか。また日本の安全保障にとって今回の中国の尖閣攻勢の急拡大は何を意味するのか。そんな事態は日米同盟に何を意味し、アメリカはどう認識しているのか。

 こうした疑問への答えを、アメリカ側で日ごろ中国の軍事動向や海洋戦略を一貫して研究する専門家たち5人に問うてみた。ほとんどがワシントンを拠点に活動する人たちである。

 日本への攻勢に対する対応はもちろん日本が独自に考え、実行することが基本である。しかし尖閣事態に関してはアメリカもほぼ当事国なのだ。尖閣諸島が軍事攻撃を受ければアメリカも日米安保条約の規定に従って日本と共同でその防衛に当たる、という方針を言明しているからである。

 結論を先に述べるならば、これらアメリカ側専門家たちからは、中国の今回の動きはたんに尖閣奪取への前進という目的に留まらず、東シナ海全体への覇権をもめざす野心的な目標への新展開だと見る点ではほぼ共通する答えが返ってきた。

 なぜいま、あえてこの時期の中国側の攻勢拡大なのか。

 アメリカの中国研究者でも長老級のロバート・サター氏は「尖閣諸島への自国の領有権主張という基本目的は別として、中国がこの時期にあえて中国海警や『漁船』を前例のない数、出動させて日本への威圧行動を始めたのは、まず日本が南シナ海での中国の無法な行動への抗議を国際的に最も強く広く表明していることへの反発や怒りのためだろう」という。

 サター氏は国務省、中央情報局(CIA)、国家情報会議などで中国問題を40年ほども担当し、最近、ジョージワシントン大学の教授となったチャイナ・ウオッチャーの大ベテランである。とくに中国の対外戦略に詳しい。

 そのサター氏は中国の動機として、今年7月に国際仲裁裁判所が南シナ海での中国の主張を違法だとした裁定への抗議をアメリカなどの国際社会一般にぶつけ、さらには中国のその断固たる抗議の姿勢を自国民に誇示するためにも尖閣への未曾有の大規模な攻勢を始めたのだろう、とも述べた。