一色正春(元海上保安官)

 前回の(「一色正春が読み解く尖閣史、日本はいつまで中国の侵略を許すのか」)に引き続き、中国が東シナ海で行ってきた主な侵略行為について振り返ります。震災から丸一年が経過した2012年3月16日に満を持して中国国家海洋局所属の海監が我が国領海を侵犯し(通算3度目)、その5日後に同局海監東海総隊の責任者が人民日報のインタビューに答えて、その行為を「日本の実効支配打破を目的とした定期巡視」と述べました。

 海監総隊という中国の海洋権益を確保するための実行部隊の責任者が「日本の領海を実力で取りに行く」と明言したのですから、言われた我が国は宣戦布告がなされたくらいの認識がなければならないのですが、この時も日本政府の反応は鈍くマスコミも大々的に報じることはありませんでした。如何にこれが異常な事かは、日本の海上保安庁第十一管区本部長が「中国の西沙諸島実効支配を打破するために定期巡視を行う」と新聞のインタビューに答えたらどうなるかを考えてみればよくわかるかと思います。

 ちなみに現在、アメリカが行っている航行の自由作戦は中国を含む13カ国が、領海を持たない人工島や国連海洋法条約で認められている範囲(12海里)を超えて主張する領海などを根拠にして他国の船舶や航空機の航行を制限しようとしていることに対して、それを容認しないという意思表示として単に航行するだけなので、他国を侵略する意図を持って行っている中国の蛮行とは全く異なるものです。

 そんな中、その約1カ月後の4月17日に石原東京都知事(当時)が、アメリカのシンクタンクのシンポジウムで「東京都が尖閣を買い取る」と宣言したのです。自称識者の方たちの中には、この石原氏の言動により中国の攻勢が強まったとして、いまだに同氏を非難しますが、はたしてそうでしょうか。
 この表を見ていただければ分かるとおり3月16日から定期的に行われるはずであった中国の定期巡視が石原氏の宣言後、約3カ月間行われていません。おそらく日本国民の熱狂的な反応と、何をするかわからない石原氏を警戒して定期巡視を行うことを控えたのでしょう。それは日本政府の国有化方針が報道されるようになってから中国公船による領海侵犯が再開されたことからも推測できます。

 ですから、中国が石原氏の言動により尖閣への攻勢を強めることになったというのは事実誤認で、逆に中国の定期巡視を止める効果があったのです。それだけではなく一時的とはいえ中国の尖閣諸島への圧力をレベルダウンさせました。南シナ海の過去の事例を見ると中国の諸島侵略は、ある程度パターン化しており、それを簡単に言うと「漁船」と「活動家」を使い分けて既成事実を作り、「公船」や「軍艦」で海上抵抗勢力を排除し、最後に上陸占領するというものです。