山田吉彦(東海大学教授)

 2010年9月7日、尖閣諸島海域で中国の漁船が、海上保安庁の2隻の巡視船に体当たりをする事件を起こした。この事件を契機に中国の尖閣諸島侵出の動きが本格化した。当時の民主党政権は、ことの重大さを認識せず、事件を起こした中国漁船の船長を処分保留で釈放してしまった。

 当時の内閣は、中国への過度の配慮から尖閣諸島における日本の主権を放棄するような判断をしたのである。以後、中国船の尖閣諸島海域への侵入が続くようになった。2012年、民主党政権は、再び尖閣諸島の管理において大きな過ちを犯した。東京都の石原慎太郎知事(当時)の発案により、東京都が尖閣諸島を購入し、実効支配体制を確立しようとする動きに対抗し、国が尖閣諸島の魚釣島、南小島、北小島の三島を買い取り、国家管理の下、何も開発行為をしないことを選択したのだ。

尖閣諸島沖で2010年に起きた中国漁船衝突事件で、動画投稿サイト「YouTube(ユーチューブ)」に当時投稿された事件のビデオとみられる動画
尖閣諸島沖で2010年に起きた中国漁船衝突事件で、動画投稿サイト「YouTube(ユーチューブ)」に当時投稿された事件のビデオとみられる動画
 日本国政府の消極的な管理体制に対し、中国は恒常的に尖閣諸島海域への侵入を繰り返すようになった。現在では、3隻から4隻の中国海警局の警備船が、月に3回ほどの頻度で日本領海への侵入を続けている。これらの行為は、中国が尖閣諸島を管理しているという既成事実を作ることを目的としている。日本も島の開発を行わず海上保安庁が洋上から管理するだけなので、日本と中国の管理状況は、同等であるとしているのだ。

 さらに中国は、尖閣諸島周辺海域に漁船団を送り込んでいる。今年8月には300隻を超える漁船が押し寄せたのだ。このような状況を中国中央電子台(CCTV)によるテレビ放送、特に衛星放送を通じて、「尖閣海域を管理し利用しているのは中国である」と国際社会にアピールしているのである。中国の侵略行為の非軍事作戦である「三戦」の中の「世論戦」である。国際世論を中国に有利になるように導こうとしているのだ。

 先般、カタールの放送局アルジャジーラの記者から尖閣諸島問題に関する取材を受けた。取材後、記者に対し、尖閣諸島問題をどのように見ているのか質問をしたところ、「日本は尖閣諸島を必要としていないのではないか。

 現状では管理しているとは言えない」との答えを得た。これが、国際社会における一般的な見方であるのかも知れない。島の開発を放棄し、周辺海域の監視だけを行う消極的な管理体制では、領有権の主張さえも危うくしているのだ。