遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士) 

 アメリカ大統領選におけるトランプ氏の当選により、中国の海洋覇権に関する影響を見てみよう。

 トランプ氏は選挙期間中に、たしかに「世界の警察にならない」と何度も言ったが、しかし当選後の人事候補の過程で、安全保障や国防に関して保守強硬派で固める動きがあるようだ。トランプ氏はコロコロと言動が変化していくので、まだなんとも言えないが、もしそうならば、軍事面における対中包囲網は、これまでと大きくは変わらないだろうことが予測される。
11月10日、米ワシントン・ホワイトハウスの大統領執務室で、オバマ大統領との会談の間に、マスコミと話をする次期大統領のドナルド・トランプ氏(AP)
11月10日、米ワシントン・ホワイトハウスの大統領執務室で、オバマ大統領との会談の間に、マスコミと話をする次期大統領のドナルド・トランプ氏(AP)
 中国政府シンクタンクの中国南海研究院の呉士存院長は「アメリカの軍事戦略を決めるのはペンタゴンなので、トランプ政権になったからと言って特段の変化は起きない」と分析し、南シナ海における米中対立関係は続くだろうと11月25日に述べた。

 ただ、南シナ海問題に関して、アメリカがこれまで通り「航行の自由」を主張してきたとしても、中国としてはすでにラオス、カンボジア、フィリピン、ミャンマー、マレーシアおよびベトナムなど関係国を一つずつ「落として」きているので、安泰だと見ている。南シナ海に関する中国の領有権を否定したオランダ・ハーグの仲裁裁判所の判決が出ていても、結果的に無効化し乗り切ったと、中国はみなしているのである。

 残るは東シナ海、尖閣諸島問題だ。日米安保条約が揺らぐことはないだろうが、南シナ海における中国にとっての「成功例」は、中国に「力による既成事実」を創り、先手を打ってしまう方が勝ちだということを学習させてしまった。

 しかし中国の海洋覇権が意図するところには、実はもっと根源的な問題が潜んでいる。それは中国共産党政権が創りあげた「中華人民共和国」という国家に横たわっている「闇」だ。

 本稿ではその「闇」をあぶりだし、それが、どのように尖閣問題と関係しているかを解剖してみよう。

 習近平政権は抗日戦争時代の「中流砥柱」(砥柱は黄河の中に柱のようにそそり立っている石で、激流の中でも微動だにしないことから、乱世にあっても毅然として節義を守っていること。闘いの中心、大黒柱)は中国共産党であると、声高らかに叫び続けている。そのため2015年には抗日戦争・反ファシズム戦争勝利70周年記念日に、建国後初めて軍事パレードを行い、全世界に中国の軍事力をアピールしようとした。

 全国レベルの抗日戦争勝利記念日と反ファシズム戦争勝利記念日さえ、初めて行ったのは、1995年のことで、それ以前に行ったことはない。

 毛沢東時代(1949年~1976年)には、ただの一度も、いかなる形でも抗日戦争勝利記念を祝賀したことがないだけでなく、南京事件(中国で言うところの「南京大虐殺」)でさえ、教科書に載せることを禁止したほどだった。