田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授)

 各種メディアの伝えるところによると、朴槿恵大統領の弾劾訴追案が、与党非主流派によって可決される可能性が出てきた。もし報道の通りの動きになれば、朴槿恵政権は事実上瓦解し、政治的な空白期間が生まれる。
4日、ソウルでの集会で、朴槿恵大統領の退陣を求める人々(AP=共同)
4日、ソウルでの集会で、朴槿恵大統領の退陣を求める人々(AP=共同)
 弾劾訴追をうければ、その間の大統領の職務代行をそのときの首相が行うことになる。現在の黄教安(ファン・ギョアン)首相は、産経新聞の報道によれば、朴槿恵大統領に近すぎることを問題視されているので、仮に黄氏が大統領代行になっても野党や世論から批判が強く、満足な政策を行えなくなると懸念されている。そうなると韓国の政治的空白は継続することになるだろう。

 現在の先進国の経済をみると、EU離脱を問いかけたイギリスの国民投票、アメリカのトランプ大統領の当選などに典型的なように、事前の世論調査などでは予期せぬ大衆の集団的行動が、政権や政策自体の方向性を大きく変更させてしまうことがしばしば観測される。まさに現代はポピュリズムの時代なのかもしれない。

 ポピュリズムは、通常は反知的で反エリート的な大衆行動として「否定的」に理解されることが多い。しかし最近の諸外国のポピュリズムは反知性的なものとは思えない。少なくとも先進国でみられる一連の経済的なポピュリズムの動きは、十分すぎるほど経済的合理性をみたしている。

 例えば、アメリカ大統領選挙で、トランプ氏が勝利した背景は、低所得な白人労働者たちの支持だけではない。現在のアメリカの経済政策に不満をもつ実に広範囲な人たちの支持をとりつけたからに他ならない。もちろん独自の選挙人制度に助けられた側面は多いが、そもそも「泡沫候補」にしかすぎなかったトランプ氏が、国民的な人気の高いクリントン氏と互角以上に戦えた背景には、既存の政治勢力の経済政策への不満がなければありえなかったことだろう。

 民主党自体も候補者選定の過程で明らかになったのは、ポピュリズム的な候補者、サンダース上院議員の根強い人気であった。サンダース氏は自称「社会主義者」であり、いわば政府介入を最も強く志向する人物である。そして政治的には真逆の極右的な立場だったトランプ氏と経済政策だけみると実によく似ている。

 もちろん社会保障のあり方や減税の手法、移民対策には決定的な相違はある。しかしマクロ経済政策(財政政策や金融政策)を、ポピュリズム的(国民主体)で推し進めることでは両者はまったく同じで、財政・金融政策とも拡張・刺激的である。つまり、もっとも右ともっとも左がまったく同じ経済観をもっていることになる。

 これはイギリス、フランスなどでもみられる政治的な動きである。日本では左派・リベラル層には積極的な財政・金融政策を推し進める勢力は事実上不在であり、ただの消費増税・財政再建派ばかりである。その意味では先進国のポピュリズムブームとは様相は異なる。ただ安倍政権の根強い支持には、やはり国民の経済優先の意識とその改善への期待があり続けていることは間違いない。