英スコットランドの最大都市グラスゴー
で19日、独立否決の投票結果に
英国旗を振って喜びを爆発させる
住民(ロイター)

 英国からの独立を否決したスコットランドの住民投票は、民族主義の台頭や国家体制のあり方をめぐり、国際社会に波紋を広げた。ドイツ紙は欧州各国内の分離独立派を念頭に、極端な民族主義が勢いづくことへの警戒感をあらわにし、米紙は安全保障の視点から「不可欠な同盟国」の安定化を歓迎。中国紙は台湾やチベット、新疆の独立機運に神経をとがらせ、「核心的利益」の死守を声高に叫んでいる。


南ドイツ新聞(ドイツ) 偏狭なナショナリズムに警戒感


 複雑な現代社会での国家存続には相互補完が欠かせない-。南ドイツ新聞は21日付社説で、スコットランドの独立否決を「多くの政治・経済的観点からみれば、合理的で正しかった」と評価した上、大衆迎合に傾きがちだった一部の独立賛成派の主張は「複雑な世界を矮小化(わいしょうか)している」と指摘。欧州連合(EU)内で頭をもたげる偏狭な民族主義とも重ね合わせ、その台頭に警鐘を鳴らした。

 社説は、一部の民族主義者が独立運動で採用したのは「狭苦しい英国から逃れるため、新たな境界を引く」という「古い手段」だったと指摘する。これは「小さくなれば、簡単でよりよくなる」と訴え、EU離脱を掲げる英国独立党やフランスの極右勢力の主張と通じるものであり、耳当たりの良い「大衆迎合主義者の救世の方法」にすぎないと切り捨てる。

 社説は、国際化した現代の世界では、民族の独自性を前面に押し出すだけで「国家を満たすことはできない」と強調する。単一民族による国家の運営が、地域の実情に即した決定を下せるメリットもあるが、金融や市場のシステムの事例が示すように、国家の存続には結局、EUのような広範な仕組みの一つとなって、足りない部分を相互補完することが欠かせない。その「補完性」こそが、欧州統合を貫く一つの基本的な考え方でもある。

 社説は、この複雑な仕組みは「しばしば理解が難しく、人々は平易な言葉の影響を受けやすくなる」と指摘する。大衆迎合主義者は現実を「単純化」することで回答を提示しているようにみえるが、実際には物事を極端に矮小化することで、重要な現実から目を背けさせているとの見方だ。

 欧州ではスペインやベルギーで分離独立派が勢いづき、反EU勢力の拡大も懸念される。社説は現実から目を背け、ことさらに民族主義をあおる偏狭なナショナリズムの広がりに「英国のみならず、欧州全体も警戒する必要がある」と強調している。(ベルリン 宮下日出男)

ウォールストリート・ジャーナル(米国) 同盟国も「安堵のため息」


 米紙ウォールストリート・ジャーナルの20、21日付社説は、独立が招きかねなかった経済面の危険性を理解するスコットランド人や英議会だけでなく、安全保障への影響を不安視していた米国などの同盟国も独立否決で「安堵(あんど)のため息をついた」と指摘した。長年、自由と安定の砦(とりで)となってきた英国が、スコットランド分離で縮小を余儀なくされることへの危機感は強く、これを払拭した否決を「スコットランド人の英知」と歓迎した。

 社説は、英国を「大西洋世界の柱で、米国にとり、欠くことのできない同盟国」と位置付ける。その上で、中東ではイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」などの極端なイスラム主義が勃興し、ロシアがウクライナへの威嚇を続けている国際情勢を挙げ、「統一が保たれ、繁栄し、安定した英国は、西側諸国に恩恵をもたらす」と強調した。

 また、社説は、世界の多くの地域で民族が独自の国家を形成しようとする「エスノナショナリズム」が広がっているとも指摘する。そうした集団の感情をプーチン露大統領のような非民主的な指導者らがかき立て、自らの目的達成に利用していると批判し、今回の独立否決は「歓迎されるべきエスノナショナリズムの拒絶だ」とした。

 一方、米紙ニューヨーク・タイムズは20日付の社説で、独立が可決されていれば、英国の核戦力である潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の「トライデント」を搭載した原子力潜水艦がスコットランドを離れ、他の母港を探さなければならなかったと指摘。経済面でも、スコットランドが英ポンドを引き続き通貨とする道筋を探らねばならなかったはずで、「混乱と騒動に発展する可能性があった」と指摘した。

 こうしたことから、「注意深い多数派にとって、統一(の維持)がもたらす実利を自治の魅力が押さえ込むことにはならなかった」とスコットランドの選択を分析した。(ワシントン 加納宏幸)

環球時報(中国) 分離独立主義の幻想を増長


 スコットランドの住民投票について、中国政府は「英国の内政問題」との立場で表向きには一貫している。だが、内心では欧州各地で高まる独立機運の波及に神経をとがらせており、独立否決という結果に安堵(あんど)したことは、25日付の中国共産党機関紙、人民日報傘下の国際情報紙、環球時報(英語版)からも読み取れる。

 環球時報は1面からの記事で、「台湾のいくつかの政治団体は、今回の投票を台湾が独立を要求する前例に挙げようとしている」と指摘した。中国国務院台湾事務弁公室の馬暁光報道官が記者会見で、「われわれは“1つの中国”を順守しており、一貫して台湾の独立に反対している」と述べ、台湾とスコットランドは「全く違う」と述べたことも改めて強調した。

 だが、すでに“波紋”は台湾以外にも広がっている。チベット亡命政府があるインド北部ダラムサラの活動家らが運営するニュースサイトは「いつか必ずチベットの人々も同じことを行う」と宣言。亡命ウイグル人組織「世界ウイグル会議」のカーディル議長も「ウイグル族は同じ民主プロセスを用いることを願っている」と発言した。

 もちろん、欧州の独立機運が「核心的利益」に波及することを中国政府は看過できない。政府系シンクタンク、中国社会科学院の専門家は環球時報に「スコットランドの住民投票は分離独立主義者の幻想を増長している」と述べ、この潮流を絶えず警戒するよう当局に促した。

 また、ある評論家は「スコットランドの問題は主に資源の分配や経済発展の利権だ。そこには外国の干渉はないし、イデオロギーの衝突もない。しかし、中国はすべての問題に対処しなければならない」と憂えた。「中国は台湾やチベット自治区、新疆ウイグル自治区、香港で英国よりも複雑な問題に直面している」との分析は、習近平指導部の抑圧的な政策で「核心的利益」を取りまく状況が悪化していることを物語っている。(北京 川越一)