春日良一(スポーツコンサルタント)

 東京都の小池百合子知事による都政改革は世論を錦の御旗に驀進(ばくしん)を続けているように見える。メディアも庶民も彼女の快進撃に意を唱えることができない「空気」を感じる。豊洲問題については、過去に遡る弾劾裁判が正当化され、そして東京五輪開催問題についても同様の手法でその開催経費にメスを入れた。
展示された五輪旗の前で笑顔を見せる東京都の小池百合子知事(手前)=11月1日、東京都庁
展示された五輪旗の前で笑顔を見せる東京都の小池百合子知事(手前)=11月1日、東京都庁
 小池知事の私的諮問機関とも言える都政改革本部の東京五輪プロジェクトチーム(PT)は、橋下大阪維新を実現させた敏腕、慶應大の上山信一教授をリーダーとして五輪見直しを提言した。「このままでは3兆円を超える開催費となる」という発表は、都民、国民を驚愕させるに十分なものだった。少なくとも東京五輪組織委員会(OCOG)のあり方に都民、国民の目を向けさせることに成功した。

 「えぇ~そんなにかかるの? なんとかならないの」から「そんなにかかるなら五輪やめれば」まで、東京五輪開催準備について懐疑的な意見が飛び交っている。しかし、当初8000億円と言われた予算が3兆円になる、という構図は客観的事実からはほど遠い。この点については、多くの専門家と言われる人々が指摘しているので詳述はしないが、立候補時の書類に記された最小予算金額と開催準備を踏まえた実行希望予算の違いと思えばわかりやすいのではないだろうか。

 小池PTは五輪開催予算の見直しを提言し、具体的に三つの競技会場の既存施設への移設等を掲げた。中でもボート、カヌー会場となる海の森水上競技場については、当初69億円の予算が1000億円に膨らみ、491億円に下がったものの、当初予算の7倍という数字が都民、国民に与えるイメージは強烈で、メディアの批判もこれに集中した。そして、代替有力候補地として長沼ボート競技場が震災復興というコンセプト付で提案されるに到り、世論はこの提案に大きく傾いた。

 しかしこの提案は、東京五輪開催契約で示した「歴史上最もコンパクトな」五輪という選手第一主義(アスリートファースト)への信条からは大きくかけ離れることになること、大きな会場変更には、既に海の森水上競技場をベストなボート、カヌー会場として、選んでいる国際競技連盟(IF)の承認が必要であり、最終的には国際オリンピック委員会(IOC)理事会の決定を受けなければならないことがあるので、当初から五輪を知る関係者には実現不可能なものに思えた。