丹羽宇一郎(公益社団法人日本中国友好協会会長)

「両刃の剣」の留学生


 習近平は「欧米の風俗、価値観に感化された人びとが指導層に増えてくると、中国本来の美点が失われる。留学生を早期に戻すといったコントロールが必要だ」と言ったとされる。

 もともとアメリカなど、人権意識の高い国々に多くの留学生を送り込むのは、中国の指導者層にとって「両刃の剣」の側面がある。

米大統領選後の11日、北京の人民大会堂で、孫文の生誕150周年の式典で講演する習近平国家主席(ロイター)
米大統領選後の11日、北京の人民大会堂で、孫文の生誕
150周年の式典で講演する習近平国家主席(ロイター)
 先端技術などを学び、中国に導入するためには必須となる海外留学だが、中国社会の異質ぶりに気づいて帰国しなくなるケースも少なからずある。技術の蓄積のためにはある程度、目をつぶっていたのだろうが、すでに許容範囲を超えてしまったのかもしれない。

 国民の基本的人権を抑圧する国家は、長い目でみれば必ず衰退していく。恐怖政治を強いた独裁国家がいずれ滅んでしまうことは、歴史が証明している。世界に受け入れられないというだけでなく、優秀な人材が母国から流出してしまうからである。中国に戻りたがらない留学生が少なからずいるという現実に、その兆候が表れている。

 留学経験のある優秀な科学研究者が、中国の技術力底上げのカギを握ることは間違いない。たんに処遇を手厚くするだけではなく、個人の自由をある程度認めなければ、簡単には中国に戻ってくれなくなる。

 そのことは指導部も、十分にわかっているだろう。実際、若い世代のリーダーほど国民の声をもっと尊重しなければいけないという思いは強い。ということは、民主化は中国の未来にとって必須の課題ということだ。留学生をはじめとする人材確保という問題がきっかけとなって、中国は徐々に新しい方向へ変わっていくのは必然の流れだろう。