長谷川良(ウィーン在住ジャーナリスト)

 中国は南シナ海・スプラトリー(南沙)諸島に岩礁を埋め立てて建設した人工島の軍事拠点化を進めている。それに対し、日本、米国、南アジア諸国は中国側に航行の自由の原則を守り、国際法を順守するように強く要求している。

 中国側は人工島から12カイリ(約22キロ)内を領海と主張しているが、同人工島は満潮時には水没する岩礁を埋め立てて建設したのもので、国連海洋法条約ではその周辺を領海とは認めていない。中国側はなぜここにきて米国と対立する危険性を冒してまで人工島の軍事化を急ぐのだろうか。
北京で会談し握手するロシアのプーチン大統領(左)と中国の習近平国家主席=9月3日(タス=共同)
北京で会談し握手するロシアのプーチン大統領(左)と中国の習近平国家主席=9月3日(タス=共同)
 目を欧州に向ける。プーチン大統領が率いるロシアはウクライナのクリミア半島を編入する一方、北欧領域に潜水艦を派遣するなど軍事的プレゼンスを強めている。クリミア半島の併合宣言は欧米諸国の強い反発を呼び、対ロ制裁が実施中だ。にもかかわらず、プーチン大統領はクリミア半島から撤退する考えはないばかりか、ウクライナ東部の親ロ派勢力への影響力を強めている。

 プーチン大統領は、クリミアが伝統的にロシア領土だったと主張し、国境線の不変更という原則を破ったことに対する国際社会の批判に対し一歩も引きさがる様子を見せていない。

 ここで問題とすべき点は、なぜプーチン大統領は国民経済への悪影響も恐れずにクリミアの併合に乗り出したのか。なぜ中国の習近平国家主席は米国の反発を知りながら、人工島の軍事化に乗り出しているのかだ。厳密にいえば、なぜ「今」、両国は超大国・米国の反発を知りながら、国際法を無視してまで拡大政策、攻撃的外交を展開させるのか、という点だ。

 冷戦時代のソ連共産党の外交を想起すれば、その疑問に答えを見つけることができる。ズバリ、敵が弱い時には強硬政策を貫徹する一方、敵が強いと分かれば、一歩後退し静観する政策だ。相手国が弱いと分かった時、ソ連共産党政権の攻撃性、野蛮性は特出していた。相手国の抵抗を容赦なく力で抑えた。なぜならば、相手が弱いからだ。一方、相手が自分より強いと分かれば、正面衝突を避け、一歩後退する。キューバ危機(1962年)を想起すれば理解できるだろう。

 最近では、ソ連の解体は米国が軍事力、経済力で圧倒的に上回っていると理解したゴルバチョフ大統領(当時)がレーガン米政権の力の外交の前に屈服した例だ。レーガン米政権は最後まで力の外交(例・スターウォーズ計画)を緩めることなく、経済的に裨益していたソ連を圧迫したのだ。

 それでは、ソ連解体の悪夢に悩んできたプーチン大統領がクリミア半島を併合し、シリア紛争でも米国側の反発を恐れず、反アサド政権派勢力に空爆を繰り返すのはなぜか。答えは、相手(米国)が弱いと分かったからだ。もう少し厳密にいえば、オバマ大統領を指導力のない大統領と判断したからだ。

 同じことが言える。大国の地位の確立を願う習近平主席は、米国の力が弱ってきていることを知っているはずだ。だから、米国と正面衝突を回避しながらも、その拡大を慎重に進めているのだ。プーチン大統領も習近平主席も、オバマ大統領が平和を愛し、戦争を回避する大統領ということを知っている。

 米国民の最大の関心は次期大統領選に移っている。オバマ大統領にはこの期間、次期大統領に負担となるような外交決定を下しにくいという事情もあるだろう。

 プーチン大統領も習近平主席も「夢」を見る指導者だ。プーチン氏は解体した大国・ソ連を再び復興させたいという夢を、習近平主席は中国の大国化という「中国の夢」を見ている。 「夢」(野心)を待つ指導者の登場が世界の平和に幸福をもたらすか、それとも紛争と混乱を誘発させるだろうか。

 いずれにしても、世界は「夢」を持つ露・中国指導者の登場に不安な眼差しを向けている。なぜならば、彼らの「夢」がマーティン・ルーサー・キング牧師の「夢」(I have a Dream)とは全く異質のものと感じているからだ。