なぜ横浜でも身売りなのか。日本球界にはリーグ型経営が必要だ


 横浜の身売り話がささやかれる一方で、ポストシーズンと呼ばれる1カ月がはじまるプロ野球界。なぜ横浜ほどの市場規模がありながら球団経営が赤字なのか。プロ野球をスポーツビジネスとして捉えたとき、日本球界はまだまだ未成熟だ。クライマックス・シリーズから日本シリーズに続くこの1カ月間のポストシーズンをいかに収益化していくかが、今後のプロ野球改革の最重要ポイントである。 (2011年10月執筆)

大坪正則
 今年も日本プロ野球のポストシーズンがまもなくスタートする。元来、クライマックス・シリーズ(CS)と日本シリーズが行われるこの1カ月間は、日本のプロ野球(日本野球機構、以下NPB)のビジネスにとって最も大切な期間である。だが、実態は理想と掛け離れ、さらにはレギュラーシーズンの勝者を重視する一部の人からは「CSはやめるべし」との声も聞こえてくる。そのような考えには賛成できない。むしろ、CSの試合をもっと増やすべきだ。 ポストシーズンは面のビジネス プロスポーツリーグを構成する球団の収支は、図表にある主な勘定項目の増減の結果として表われる。収支を整えるには地方市場、即ち「点のビジネス」と全国市場、即ち「面のビジネス」の両立を図り、そして両市場から得た収入の範囲以内に支出を抑えなければならない。

ポストシーズンは面のビジネス


 プロスポーツリーグを構成する球団の収支は、図表にある主な勘定項目の増減の結果として表われる。収支を整えるには地方市場、即ち「点のビジネス」と全国市場、即ち「面のビジネス」の両立を図り、そして両市場から得た収入の範囲以内に支出を抑えなければならない。

 地方市場とは、フランチャイズ制の下で各球団に与えられた地域独占営業区域を指し、この地域ではチケットと球場内物品が販売される。球団が販売を独占するので、1人のオーナー対多数のファンの関係となり、オーナーによる「売り手市場」が形成される。


 そして、テレビの電波は、フランチャイズ地域を越え、全国津々浦々、さらには全世界に届くので、全国市場を形成した。しかもテレビは、全国市場で販売・展開されるマーチャンダイジング(商品化)とスポンサーシップを牽引する。全国市場の管理は個別球団が行うよりもコミッショナー(または、1人の人物)に任せる方が効率が良い。ここでもコミッショナー1人に対して多数の契約候補者の関係になるので、「売り手市場」が形成されることになる。

 プロスポーツリーグは地方市場と全国市場をそれぞれ1人の「売り手」の管理下に置くことができる。ビジネスの上で、これほどの理想的形態はない。

 NPBの最大の問題は、そのビジネスが全国市場に広がらず、地方市場に留まっていることにある。

(編集部作成)

 日本では、1959年に後楽園球場で巨人対阪神の天覧試合が行われ、NPB人気を確固たるものにする一方、テレビ放送権が試合主催者である球団の管理下に置かれることになった。以来、一貫して巨人戦だけが地上波で全国放送されてきた。交流戦開催前までを例に取ると、各チームの年間ホーム試合数が70ならば、巨人に70試合分の、そして巨人以外のセ・リーグ球団に14試合分の放送権利料が入った。巨人との試合が無いパ・リーグ球団はセ・リーグ球団と比較して放送権利料収入が極端に少なかった。

 この不合理はテレビ放送だけに限らない。球団が商品化とスポンサーシップを個別に管理すると、それらの権利は全国市場で成長・発展しない。全国市場で商品グッズを販売したいメーカーも、同じくスポンサーシップを展開したい大手企業も、巨人や阪神の人気が高いといってもファンの比率は20~30%が上限だから、契約することを躊躇する。巨人や阪神と契約した場合、70~80%のファンからソッポを向かれる可能性が高いからだ。したがって、NPBでは、全国市場の商品化とスポンサーシップが球団の収入に貢献しない構造になってしまった。結局、巨人中心のテレビ放送が、巨人に依存するセ・リーグと赤字体質のパ・リーグを生み出し、同時に全国市場の開拓がお座なりになった。

収入増をもたらすプレーオフの長期化


 米国では、62年、アメリカンフットボールのナショナルフットボールリーグ(NFL)が、コミッショナーの指導の下でテレビ局と地上波独占契約を締結した。コミッショナーによる独占契約は、後にメジャーリーグベースボール(MLB)など他のプロリーグでも採用された。

 MLBの放送権の管理はNPBのそれとはまったく異なる。MLBは30球団で構成され、各球団は年間162試合戦うので、全ての試合を全国放送にすることはできない。全国に放送する試合をコミッショナーが選択し、残りは各球団の管理に戻される。各球団に地方市場での放送が許されるのだ。

 このシステムでは、シーズン開幕から8月頃までコミッショナーの出番はない。なぜなら、フランチャイズ制の下では、ファンは地元のチームを熱心に応援するので、全国向けに放送をしても対戦する2チームの地元ファン以外は見てくれないからだ。全国市場に向かってテレビ放送が動き出すのは、優勝争いから脱落するチームが出始める8月頃からになる。優勝争いから落ちて行くチームを応援するファンの関心をプレーオフとワールドシリーズに惹きつけるために、地上波の全国放送の回数を徐々に増やすことになる。

 商品化とスポンサーシップの収入拡大はテレビが牽引するので、MLBではコミッショナーがテレビに加え、商品化・スポンサーシップも一括管理することになった。これによって、全国市場のビジネス活性化のために、テレビ局、商品化のライセンシー、スポンサーなどのステークホルダーの協力を得て、全国規模でのプロモーションを展開できる準備も整う。8月頃からワールドシリーズまでが、ライセンシーの書き入れ時期になり、スポンサーはその間に大々的なセールスキャンペーンを行うのが慣例化する。その中心になるのが、シーズン終盤の優勝争い、プレーオフ、ワールドシリーズ終了までの連続した地上波による全国放送である。だから、戦力が拮抗して試合数が多くなり、そのためプレーオフの期間が長くなればなるほど収入増加に寄与する。参考までにNPBと米国4大プロリーグのプレーオフの組合せを別記する。

 テレビ活用の上手なリーグと球団が潤い、テレビ活用に乗り遅れた所は売上が伸びない。現に、テレビ放送がMLBとNPBの経営の仕組みを決定的に違うものにし、今現在、大きな経済格差を生む要因となっている。

 Forbes「The Business of Baseball 2011」によれば、MLB30球団の収入合計は61億3700万ドル。日本円に換算すると、約5000億円。一方のNPBは推定だが、約1200億円。球団当たりの平均収入が、MLBは約170億円、NPBが約100億円。この差が選手年俸の差となって表れ、日本人選手のMLB入りを促している。

地域密着の営業で成果出すパリーグ


 「親会社が、球団の当該事業年度において生じた欠損金を補填するため支出した金額は、広告宣伝費として取り扱う」(54年国税庁通達)の特例が日本の球団経営を甘いものにし、球団改革を遅らせたようだ。赤字を出し続けたパ・リーグでは、2リーグ制発足時の6球団の親会社が全て撤退し、総入れ替えとなった。 そして、04年大阪近鉄バッファローズの消滅が、他のパ・リーグ球団に大きな衝撃を与えた。親会社が赤字に陥り、その時球団が赤字であれば、球団が消えてなくなることを目の当たりにしたからだ。パ・リーグの球団は黒字に向かって改革を迫られた。だが、テレビ放送権が絡む全国市場の改革はセ・リーグ球団の了解を必要とする。セ・リーグの了解取得は至難の業、時間もかかる。そこでパ・リーグは地方市場からの収入拡大に着手することにした。

 幸い、日本ハムが北海道に移転し、楽天が近鉄に代わり東北に進出、ソフトバンクがダイエーの商圏だった福岡を継承し、バランスの取れたフランチャイズを敷くことができた。これは、フランチャイズ制の利点の1つである地域密着の営業活動を展開できることを意味する。05年以降のパ・リーグの「元気良さ」は地域密着の営業が上手く行われている証であり、数字が如実に物語っている。

 04年11月のオーナー会議でパ・リーグ球団の平均赤字額が32億2200万円と発表されたが、09年度には2球団が赤字だった(『AERA』10年11月29日号)という調査結果も出るようになった。親会社からの補填があった上での黒字だったかも知れない。それでも、観客動員数で見ると、実数発表が始まった05年と比較して10年は158万939人増の983万2981人となっている。赤字球団の減少が親会社からの補填に頼った結果だけでもなさそうだ。

 パ・リーグは、6球団が協働して営業活動を行う会社を07年に設立し、パシフィックリーグマーケティング(PLM)と名付けた。PLMはホームページの作成、インターネット動画中継、リーグスポンサーの獲得などの成果を挙げており、今後も更なる業績拡大が期待されている。

 一方、セ・リーグの観客動員数をパ・リーグの同期間と比べると、63万5451人の増加で、パ・リーグの半分にも満たない。フランチャイズの分布を見ると、バランスが取れていない。全国市場を優先して地域密着の営業が機能していない球団もあれば、東京及び近隣の都市に3球団が並存しているからだ。同じ日の同じ時間に、東京ドーム・神宮球場・横浜スタジアムで試合を行いファンの奪い合いをすることは、地域独占の観点に立てば、最悪の事例だ。関東以北に球団がないのもファン層が偏在する要因となっている。

 現状打開は、全国市場のビジネスモデルを変えることだ。全国市場の管理を個々の球団から一括管理ができる1人の人物に移管しなければならない。それが達成できれば、球団の数を12から16に、更に16から24に増やすことも視野に入ってくる。全国市場が活発化すると、全国市場からの収入分配が増えるので、各球団の収支が改善される。ファン層と市場の拡大も期待できる。さらに良いことは、全国市場からの分配増加が各チームの「戦力の均衡」も促進できる。緊迫した試合が増え、これまで以上にファンを惹きつけることも可能となる。その中で核となって働くのが、MLB同様、シーズン終盤、CS、日本シリーズを連続して全国に放送するテレビなのだ。

 以上のことから、CSと日本シリーズの地上波による全国テレビ放送の重要性が理解して貰えると考える。今NPBに求められるのはリーグ型経営の早期実現である。