「4島返還」を狙う安倍首相、プーチン会談に仕掛ける落としどころ

『名越健郎』

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名越健郎(拓殖大学海外事情研究所教授)

 12月15、16日のプーチン・ロシア大統領訪日は、当初の希望的観測から、11月のリマでの首脳会談を経て急速に悲観的見通しが大勢となってきた。会談を控えたロシア側発言も、「(ロシアの4島領有は)第2次大戦の結果であり、今日ロシアが主権を持つ領土である」(プーチン大統領)、「平和条約問題は話し合われるだろうが、深い議論は予定されていない」(モルグロフ外務次官)などと悲観的なものばかりだ。 
プーチン大統領(右)と会談する安倍首相=2016年11月19日、リマ
 9月2日のウラジオストクでの首脳会談後は、歯舞、色丹両島の引き渡しと国後、択捉の協議継続という「2島プラスアルファ」案や4島の「共同管理」案がメディアで報じられた。しかし、安倍首相がリマでの首脳会談後、「(進展は)容易ではない」と二度言及するに及んで、「ゼロ回答」という厳しい見方まで伝えられる。

 両国が意識的に期待値を下げている側面もあるが、米大統領選のトランプ候補当選、日露経済協力を担当するウリュカエフ前経済発展相の収賄容疑による逮捕などで風向きが変わったことも事実だ。

 9月の首脳会談の際、ラブロフ外相は「(山口会談では)これまでの交渉の結果を報告したい」との表現で、ロシア側が何らかの提案を示す意向を示唆していた。だが、その後の同外相の強硬発言からみて、ロシア側からの新提案は期待できそうもない。

 日露関係筋によれば、プーチン大統領訪日では、10-20の経済協力案件の文書調印が予定されるが、共同声明の発表は予定されていないという。その場合、北方領土交渉の成果が文書に盛り込まれないことになり、経済協力の「食い逃げ」となってしまう。ようやく実現した大統領訪日で、領土問題の成果が全くない場合、安倍外交への風当たりが強まりかねない。

 安倍政権はおそらく、山口会談を本格交渉の「出発点」と位置付け、首相の側から叩き台となる何らかの新提案を提示するかもしれない。

 日本側の発表によれば、プーチン大統領は15日午後、特別機で山口入りし、山口県長門市の温泉ホテルで首脳会談とワーキングディナーを行う。両首脳は16日に東京に移動し、首相官邸で昼食を交えた首脳会談と、共同記者会見を行い、大統領は同日夕には帰国の途に就く。安倍首相は今年に入って、5月のソチ、9月のウラジオストク、11月のリマと、二人だけの密室会談を続けており、長門での温泉会談はその延長線上となる。

 過去の日露首脳交渉で、山口会談に似た形態の首脳会談があるとすれば、1998年4月の川奈会談だろう。橋本龍太郎首相は個人的親交を深めたエリツィン大統領を伊豆半島の川奈ホテルに招いて1泊2日で会談。非公式協議の位置付けとなり、橋本首相は席上、「両国の国境線を択捉島とウルップ島の間に敷くなら、ロシアの施政を合法的なものと認め、4島の現状を今のまま継続する」との国境線画定提案を行った。
「2島返還」まで譲歩できない北方領土問題

 エリツィン大統領は身を乗り出して強い関心を示したものの、側近のアドバイスで持ち帰って検討すると答えた。その後、同大統領は健康悪化や支持率低下に陥り、政権担当能力が低下。ロシア側は結局受け入れなかった。後任のプーチン大統領は川奈提案について、「よく考えられた勇気ある提案だが、ロシアとしては受け入れられない」と正式に拒否した。

 川奈提案は事実上の4島返還案だったが、プーチン政権は56年の日ソ共同宣言に沿った歯舞、色丹2島の引き渡しには含みを残しながら、国後、択捉の帰属協議に応じる意思を示したことは一度もない。仮に、安倍首相が長門市で行われる会談で、「長門提案」を行う場合、川奈提案よりも要求を下げた内容にならざるを得ない。

 選択肢としては、中露両国が国境問題を最終決着させた面積折半方式や、日本が国後、色丹、歯舞の3島を獲得する「3島返還論」も考えられる。だが、プーチン大統領は11月に米ブルーンバーグ通信との会見で、中露と日露の領土問題を比較し、「2つの問題には根本的な違いがある。日本との問題は大戦の結果生じており、国際的取り決めで規定されている。中国との問題は大戦と一切関係がなかった」と一蹴している。

 自ら高揚させた戦勝神話と民族愛国主義が国内に広がる中、リスクの多い「国後割譲」には踏み込めないだろう。日本側が「3島返還」を切り出す場合、日本の主張は直ちに「4島返還」から「3島」に歴史的に転換するというリスクがある。
北方領土・歯舞諸島
 こう見てくると、「相互に受け入れ可能な解決策」の模索は至難の業だが、一定の合意を目指す場合、「長門提案」はたとえば、①ロシアによる戦後の領有を容認する②56年共同宣言に沿って、平和条約締結後の歯舞、色丹引き渡し交渉を進める③国後、択捉の帰属は将来の問題として残す-といったトーンになるかもしれない。

 しかし、ロシアの現状から見て、この提案も受け入れそうにない。ロシアでは「歯舞、色丹を引き渡した後、国後、択捉の帰属を協議することはあり得ない」(ロシア外務省当局者)との主張が圧倒的であり、最終的には「2島決着」が最大限の譲歩となる。

 安倍首相はこれまで「4島の帰属問題を決着させて平和条約を結ぶ」と強調しており、公の場で「4島返還」に言及したことはない。とはいえ、戦後の自民党政権が「4島一括返還」を主張してきた手前、安倍首相が「2島決着」まで要求を下げることはできないだろう。山口会談は落としどころが難しい会談になる。

 山口会談でサプライズが飛び出す可能性に期待したいが、日本としてはこの際、プーチン体制下での国後、択捉返還が困難であることを覚悟しておくべきだろう。不可能を承知で今後も「4島」を要求し続けるのか、屈辱的な「2島」で幕引きを図るのか-。北方領土問題は次第に国内問題となり、日本はいずれ、不愉快な選択に直面するかもしれない。

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