ロシアの著名な国際政治学者ドミトリー・トレーニンは、日露間で50年かけて信頼関係を積み重ね、北方領土問題を解決するという遠大なプランを発表したことがある。この構想は日本でも大きく紹介されたが、米国の同盟国である日本に領土を引き渡すというのはそれだけの覚悟が必要なことである、とも言える。

歯舞群島・水晶島のボッキゼンベ墓地(旧日本人墓地)に
墓参する元島民ら=北方領土・歯舞群島(鈴木健児撮影)
 また、もしも日本との交渉が難航すれば、ロシアは「北方領土は第二次世界大戦の正当な結果としてソ連(ロシア)の領土になった」という原則論に立ち戻るであろうし(現在はほぼそうなりつつある)、領土問題を棚上げにしたまま日本からの経済協力を引き出すために様々なけん制を繰り出してくるだろう。北方領土におけるさらなる軍事力強化はそのひとつであるし、最悪の場合には尖閣諸島と北方領土の領有を中露が相互に承認する(あるいはそれを示唆する)など、中国ファクターを用いた恫喝に出てくる可能性も考慮しなければならない。

 安倍政権としては、ロシアとの関係強化を中国の膨張に対する一種のけん制とする思惑があるとされるが、ロシア側としてもそうした意図は当然、見抜いた上で行動に出てくると想定しておく必要がある。

 このようなロシア側の出方を踏まえた上で求められるのは、経済協力と並行してロシアとの安全保障協力を進めることであろう。

 もちろん、日本は今後とも日米同盟を安全保障の基軸とし続けるであろうし、それゆえにロシアとの安全保障協力には限界がある。

 ただ、ウクライナ危機以前の日露は2プラス2(外務・防衛閣僚協議)や合同SAREX(海上捜索・救難共同訓練)のような形で安全保障協力を行ってきたし、欧米諸国はさらに踏み込んだ協力(たとえば対テロ・対海賊・対ハイジャック訓練、ミサイル防衛、機雷掃海など)を実施してきた。今後、ロシアとの間でこうした協力枠組みを再開・深化させることは一つの方法であろう。特にソマリア沖の海賊問題については、日露はともに同じ海域に艦艇を派遣しており、こうした事態を想定してSAREX以上の合同訓練を行うことは可能かもしれない。

 あるいは、欧州や中国との間でロシアが行っているように、互いの国境付近における兵力配備の制限、兵力の移動や演習の事前通告といった信頼醸成措置を実施することも考えられよう。