谷口恒(ZMP社長)

【連載 経営トップの挑戦】第3回〔株〕ZMP代表取締役社長 谷口恒

 2020年の東京オリンピック・パラリンピックまでに、ドライバーのいない自動運転タクシーを実現させる。そんな大きな夢に向かって、政府のあと押しも受けながら突き進んでいるのが、ロボットタクシー社だ。同社はZMPとDeNAの合弁会社。カギとなる自動運転技術を担うのがZMPである。自動運転といえば、日米欧の自動車メーカーが開発にしのぎを削っている技術。その中で、ベンチャーであるZMPはどのような戦略を取っているのか。勝算はあるのか。ZMPの創業社長であり、ロボットタクシー社の会長も務める谷口恒氏にうかがった。

ヒト型ロボットでやれることはやり切った

ZMP・谷口恒社長
ZMP・谷口恒社長
 ――まず、ZMPを起業された経緯をお教えください。

谷口 私は、メーカーと商社を経て、1999年にインターネットの会社を創業したのですが、翌年にITバブルが崩壊しました。会社への影響はほとんどなかったものの、「これからどうしようか」と思っているときに出会ったのがロボットでした。

 取引先の方が文部科学省所管の科学技術振興機構の技術参与になられたので、そこでロボットを研究しているのを見に行ったんです。2足歩行をするものの、まだ頼りない感じではあったのですが、「ロボットには可能性があるな」と思いました。

 2000年はロボットが世の中に出始めた頃で、人びとがその未来に心をときめかせていました。大きな夢があったのです。ソニーがAIBOを発売したり、ヒト型ロボットを開発したりしていて、ホンダもASIMOを開発していた。自分も、そんな大手企業がやっている事業に参加したい、という想いもありました。そこで、ロボット開発会社のZMPを設立したのです。

 ――具体的に、ロボットでどういうビジネスをしようと思われていたのですか?

谷口 初めの頃はあまり考えていませんでした。『PINO』(右写真)という高さ70cmの2足歩行ロボットを作ったのですが、そういうロボットは珍しいということで、イベントへの出演依頼が来たんですね。そこへキャスティングして、出演料をいただいていました。芸能事務所みたいな仕事ですね(笑)。アルバイトに手伝ってもらいながら1人でやっていたので、出演料の金額設定も自分で考えて決めていました。テレビCMに出演することもありましたし、宇多田ヒカルさんの『Can you keep a secret?』のミュージックビデオに出演したこともあります。

 そうしているうちに、だんだんお金が入るようになって、人も採用できるようになりました。そこで、技術者を採用して、自分たちでロボットを開発することにしました。それまでの、技術移転を受けて製品化していたロボットは、すぐに壊れてしまっていたんです。

 ――科学技術振興機構からの技術移転ですか?

谷口 そうです。移転を受けたのは研究段階の技術だったので、それを自分たちで高めていくことにしたわけです。目指したのは、家庭用のヒト型ロボットで一番乗りをすること。家庭用ロボットとしては、それまでにもAIBOがありましたが、ヒト型はありませんでしたから。

 ――家庭用というのは何をするのでしょうか? 家事とか?

谷口 いやいや。今でも家事ができるロボットはないですよね。ヒト型ロボットを量産する、というだけです。やったのは、家庭で買える値段にすること。当時、高いノートパソコンが30万円くらいでしたから、それくらいに抑えることを目標にしました。コストを下げるために、モーターの数を減らしました。モーターの数を減らすと、大きなものは作れないので、小さくなります。小さくなりすぎるとまた高くなるので、40㎝くらいの大きさに落ち着きました。また、量産するにはお金がかかるので、ベンチャーキャピタルからの出資を受け入れました。そうして2004年に発売したのが『nuvo』(左写真)です。結局、58万8,000円になってしまいましたが。

 高くなった要因は、ほぼすべての部品が世の中になく、自ら特注品を作ったからです。また、目がカメラになっていて、携帯電話でアクセスをすると、その映像を見ながら遠隔操作できるようにもしました。この技術はNTTドコモさんと共同開発したもので、特許も持っています。

 発売すると、最初は勢いよく売れました。でも、どんどん鈍化していく。値段が高いですからね。では、頑張って40万円にしたら売れるかといえば、そんなことはないだろうと思いました。というのは、ヒト型ロボットには、機能が「面白さ」以外にないからです。

 ――言ってしまえば、おもちゃにすぎない、ということですか。

谷口 おもちゃとしても、乱暴に扱うと壊れてしまうし、高価ですから、どうかな、と。

 発売することによって、ユーザーの要望を聞けるのではないかという期待もありました。それを機能として製品に搭載することを考えていたのです。しかし、出てくる要望は、それこそ「家事をしてほしい」といったものばかりで、現実的ではない。ユーザーの期待と実際にできることとのギャップがあまりに大きすぎました。そこで、在庫は売り切って、次の量産はしないことにしたのです。

 ヒト型ロボットに対する期待と実際にできることのギャップは、今でも当時とほとんど変わっていません。多少変わったのは、音声認識の性能や画像認識がよくなったくらい。でも、それは入力インターフェイスの1つにすぎなくて、ヒト型ロボットとして、歩行する、手で何か仕事をする、などの技術ではないですよね。家庭用の歩くヒト型ロボットは、ZMPが出して以来、どこも出していません。

音楽ロボットの開発から「自律移動」の技術が始まった


 ――ヒト型ロボットの開発に区切りをつけたあとは、どうされたのですか?
谷口 ヒト型ロボットには、値段が高いということの他に、歩くことが飽きられるという問題もあります。最初は、歩いたり、自分で起き上がったりするのが面白がられていたのですが、次第に、歩くことが欠点に変わってきたのです。遅くて移動に時間がかかるし、倒れやすいわけですから。しかも、モーターをたくさん使うので、電池が持ちません。

 そこで、次に開発した『miuro』(上写真)というロボットは、モーターを2つだけ使って車輪で移動するものにしました。そのほうが速いし、自由に動けるうえに、電池も長く持ちます。

 機能については、私はエンターテインメントが好きなので、音楽を運んでくれるロボットにしました。自分の好きなときに、好きな場所で音楽が聞ける、新しいミュージックライフを作ろうと考えたのです。たとえば、夜の10時くらいにウイスキーを飲んでくつろいでいるところに来てジャズを流してくれる。朝、寝室に来て、ロックで目を覚まさせてくれる。そんなロボットです。

 そのためには、自律移動の技術が必要でした。『miuro』は、世界で初めての、自律移動する家庭用ロボットです。この技術はSLAM(Simultaneous Localization and Mapping)と呼ばれるもので、今、話題になっている自動車の自動運転にも使われています。

 たとえば、miuroに玄関からソファまで来てほしいとすると、まずは、リモコンで玄関からソファまで操作します。するとmiuroは、移動しながら、車輪についた距離計で距離を測り、障害物センサーで周囲のモノとの距離を測って、自分が通るべき道の地図を作ります。同時に、カメラでところどころの写真を撮って、目印にします。そうすることで、作った地図の中での自分の位置を特定することができるわけです。

 ――高度な技術だと思いますが、自社で開発されたのですか?

谷口 そうです。miuroは飛ぶように売れたのですが、さらに量産しようとしたところでリーマンショックが起きて、資金調達ができなくなってしまいました。そこで、自律移動技術を4輪に応用して、2008年からRoboCarの開発を始めました。量産するものではなく、研究開発用に自動車メーカーなどに販売するものです。私はもともと自動車関連のメーカーにいたことがあり、自動車については明るかったので、「これから自動車もロボットになる時代が来るだろう」と考えたのです。翌年、まずは、miuroと同じくらいの、乗用車の10分の1サイズ(429×195×212.2mm)のRoboCarを発売したところ、よく売れて、そこからだんだんサイズを大きくしていきました。

 ――この技術は、他の企業は開発していなかったのですか?

谷口 していませんでした。今は自動車の自動運転で注目されている技術ですが、いきなり自動車のような大きなもので実現しようとすると、かなり難しいのです。私たちは、miuroという小さなもので開発したから、実現できたのだと思います。それから、小さな4輪で実現して、1人乗りの電気自動車で実現して、プリウスで実現して、と、段階的に、継続して開発してきました。

 ――今、世界中の自動車メーカーが自動運転技術の開発を競っています。その中で、先行者としての強みがあるということでしょうか?

谷口 全部、イチから自分たちでやっているという強みはありますね。

 自動運転に必要なのは、目と頭、つまり、ステレオカメラとしてRoboVision、人工知能として膨大なデータを計算するコンピュータIZACだけです。今の自動車は電子制御になっていて、電気信号を出せば動きますから、運転をするための身体は必要ありません。カメラと人工知能はロボットの開発でフォーカスしてきた技術ですから、その点でも強みがあると思います。

 また、RoboCarを販売した自動車メーカーからのフィードバックが得られるのも、当社の強みです。

 ただ、技術ということだけで言うと、すでに自動運転に必要なものは論文などで世の中に出回っています。今は、いかに精度を上げるか、高価なセンサーをいかにコストダウンするか、といった実用化のフェーズに移っています。このフェーズで最も重要なことは、その技術を何に使うか。この点で、自動車メーカーと私たちは決定的に違っています。

 自動車メーカーの顧客はドライバーです。ドライバーが、好きな自動車を買って、運転する。それが安心、安全にできるように支援するために、自動運転の技術を使うわけです。つまり、これまでのビジネスの延長上に自動運転がある。

 一方、私たちが顧客として決めているのは、高齢者や子供、障害者、外国人観光客など、運転免許を持っていない人や自分で運転できない人、あるいは自分で運転したくない人です。そういう人たちのためのロボットタクシーに、自動運転技術を使います。要するに、私たちは旅客業をやるのです。

 ですから、自動車メーカーと競合するわけではありませんし、グーグルとも競合しません。自動運転タクシーというものは、ZMPとDeNAさんの合弁会社であるロボットタクシー社が世界で初めて謳ったものです。最近、ウーバーが自動運転車を開発すると発表していますから、それは競合になり得るでしょうが、自動運転タクシーという市場に誰よりも早く参入して、広く使われるようになれば、それが最大の強みになります。これはもう技術の問題ではありません。

 ――今はプリウスなどを改造して自動運転の実証実験をされていますが、将来的には完成車メーカーになろうというお考えはありますか?

谷口 「完成車」というとわかりにくいのですが、自分たちでイチから自動車を作るかといえば、ノーです。やはり、今から自動車生産を始めるのは利口ではない。一般のタクシーは市販の自動車を改造して使っていますよね。同様に、ZMPが自動車メーカーから車両を購入して自動運転車に改造し、それをロボットタクシー社に販売する、という形を取ります。

 ――ロボットタクシー社は、あくまでタクシー会社なのですね。

谷口 そうです。車両はフランチャイズすることも考えられますね。配車はインターネットを使って行ないます。たとえば、1週間後に日本に来る外国人旅行者が、羽田空港から浅草まで乗りたいと思えば、インターネットで予約しておける。言葉の通じないドライバーを相手に苦労をしなくても、快適に観光ができるわけです。

 ――タクシー事業に参入することになると、タクシー業界から反発があるのではないでしょうか?

谷口 タクシー業界からは歓迎されるのではないかと思います。というのは、人手不足の業界で、人件費がかさんで採算が悪化しているからです。しかも、ドライバーには高齢の方が多く、今後ますます人手不足が深刻化していくと見られています。体力的にきつく、事故を起こしてしまうと人生を棒に振る可能性もある大変な仕事ですから、若者が就職したがるわけでもありません。ロボットタクシーが参入して、人手不足の問題が解消することは、業界にとっても、利用者にとっても、良いことではないでしょうか。

 ――それでは、タクシー業界におけるロボットタクシーの強みはどこにあるのでしょうか?

谷口 1つは、ドライバーがいないので人件費がかからず、運賃を抑えられることです。とはいえ、極端に安くするつもりはありません。原価が低い電子書籍の値づけが紙の本を基準にしているように、ある程度、他社と足並みをそろえるつもりです。

 もう1つは、完全な個室になること。ドライバーの目を気にする必要がありません。他人に聞かれたくない話もできます。実は、タクシーのクレームで多いのはドライバーの加齢臭や体臭なのですが、ロボットタクシーなら、そんな心配もありません。

すべての道をロボットタクシーが走る必要はない


  ――実際のところ、実用化できるところまで技術の精度は上がっているのでしょうか?

谷口 私は、まずは、極力、一般のドライバーが運転する自動車と混在させないようにしようと思っています。2020年の東京オリンピック・パラリンピックのときにはタクシー専用のレーンができるでしょうから、職業ドライバーしか走らない、そのレーンを走らせることを考えています。

 また、全国あまねく、すべての道路を走れるようにしようとは思っていません。たとえば、センターラインが引かれていない道路や歩道と車道が分離されていない道路は危険ですから、走らせるつもりはありません。
 ――走れるところを走ればいい、と?

谷口 そうです。国道と都道府県道くらいの幹線道路だけ走れれば、実用的には十分です。実際、皆さんがタクシーを拾うときは、幹線道路まで出てきているのではないでしょうか。

 ――なるほど。ロボットタクシーの事業について、よくわかりました。他に、御社が注力されている事業には、どのようなものがあるのでしょうか?

谷口 ロボットタクシーの次に皆さんの関心が高いのが、物流ロボットの『CarriRo』(右写真)です。

 メーカーなどの物流の現場も、タクシー業界と同じで、人手不足が深刻です。倉庫の中はほとんど自動化されておらず、人の手で荷物が運ばれているので、作業者の身体への負担が大きい。それなのに、働いているのは65歳以上の方が多いのです。

 CarriRoは台車の形をしたロボットで、経路をインプットしておけば、自動で荷物を運んでくれますから、作業者の身体への負荷を大きく減らせます。また、カルガモのように、1台のCarriRoのあとを複数台のCarriRoがついていくので、作業効率も上がります。

 2016年に量産を始める予定で、すでに130社以上から引き合いがあります。その半数以上が東証1部上場の大手です。

 ソニーモバイルコミュニケーションズさんとエアロセンスという合弁会社を設立して、一般的な4枚羽根のドローンや固定翼のVTOL(垂直離着陸型)も作っています。ドローンといっても趣味用ではありません。土木工事や建築の現場で、工事の進捗の過程を空撮して記録するためのものです。デベロッパーなどに、すでに一部、サービスをご利用いただいています。ちゃんと図面どおりに工事が進んでいるかが確認でき、品質保証になるわけです。

 ――ロボットが日々の仕事の中で活躍しているイメージが浮かんできました。本日はありがとうございました。

革新的なサービスを、日本から

 2015年10月1日、ロボットタクシー社と内閣府は、2016年から神奈川県藤沢市で自動運転タクシーの公道での実証実験を始めると発表した。谷口氏にとって、待ちに待った実験だ。
 谷口氏が政府にロボットタクシーの構想を伝えたのは3年ほど前のこと。しかし、法的な問題もあり、なかなか話が進まなかった。そこで谷口氏は、さまざまなメディアの取材を積極的に受け、ロボットタクシーの構想と必要性を説き、講演でも紹介を行なってきた。そしてようやく世論も動き始め、小泉進次郎氏のあと押しも得ることができ、政府が動くに至ったのだ。
 可能な限り早く事業を始めるため、谷口氏はさまざまな手段を取っている。ロボットタクシー社を設立するに当たって合弁相手にDeNAを選んだのも、スピードを重視したからだ。複数のIT企業が関心を示していただが、最も決断が速かったのがDeNAだったのだ。加えて、ロボットタクシー社の社長に就任した中島宏氏(現在、DeNA執行役員オートモーティブ事業部長を兼任)の情熱が決め手だったと谷口氏は言う。
 ZMPで働く技術者は、国内外を問わず募集し、優秀な人材を集めている。採用要件に日本語ができることは入れていない。社内では英語での会話が飛び交っているそうだ。これも、技術開発のスピードを速めるためだ。
 世界に先駆けて、日本でロボットタクシーが実用化されれば、日本の先進性を世界にアピールすることにもなる。その日が来るのが、今から楽しみだ。

《写真撮影:まるやゆういち》
《製品写真提供:〔株〕ZMP》

たにぐち・ひさし 〔株〕ZMP代表取締役社長。兵庫県生まれ。大学卒業後、エンジニアとして制御機器メーカーで商業車のアンチロックブレーキシステムの開発に携わる。その後、商社の技術営業、ネットコンテンツ会社の起業を経て、2001年、〔株〕ZMPを設立。01年に研究開発用2足歩行ロボット『PINO』、04年に家庭向け2足歩行ロボット『nuvo』、07年に自律移動する音楽ロボット『miuro』を発売。08年から自動車分野へ進出し、09年、自動運転技術開発プラットフォーム『RoboCarシリーズ』を発売。15年、〔株〕ディー・エヌ・エーとの合弁会社ロボットタクシー〔株〕を設立。同年、ソニーモバイルコミュニケーションズ〔株〕との合弁会社エアロセンス〔株〕を設立。