重村智計(早稲田大学名誉教授)

米韓同盟崩壊の危機


 来年は、韓国に親北政権が誕生し、韓国が衰退に向かう可能性が高く、朝鮮半島をめぐる安全保障が激動の時代を迎えそうだ。これは、韓国の保守与党が、国民から見放されたためだ。

 ソウル大研究所の最近の調査では、保守与党「セヌリ党」の支持率は、30.3%から9.2%に急落した。保守勢力は、与党セヌリ党を解散して、党名を変え新たな保守政党を発足させないと、大統領選勝利は難しい。
韓国・国防省前で米軍の最新鋭高高度防衛ミサイル(THAAD)の韓国配備に反対する人々=10月20日(AP)
韓国・国防省前で米軍の最新鋭高高度防衛ミサイル(THAAD)の韓国配備に反対する人々=10月20日(AP)
 野党指導者たちは、日韓の慰安婦合意破棄を主張し、米軍のTHAAD(高高度防衛ミサイル)韓国配備にも、反対している。強硬な対北制裁にも、批判的だ。親北野党からの大統領誕生で、日米韓の安保協力は難しくなり、米韓同盟も弱体化する。拉致問題解決にも、協力しなくなる。

 韓国は、政党が大統領を作り出すのでなく、大統領が政党を創出する政治だ。与党セヌリ党は、朴槿恵大統領当選後に、ハンナラ党から改名した。盧武鉉大統領は、ウリ党を創設した。また「風の政治」とも言われる。およそ3カ月で、世論と政治の「風向き」が変わる。韓国政治は風が吹くと、一斉に同じ方向に走り出し、少数反対意見は抹殺されかねない。儒教文化による「大衆全体主義」の性向だ。

 韓国政治の底流には、親北左翼と保守勢力の長い対立がある。政治は、儒教的価値で動かされる。「正統性」と「大義名分」である。左翼は、「正統性は、日本帝国主義と戦闘した北朝鮮にある」との主張で、若者を引きつけた。

 金大中政権の登場以来、親北左翼勢力が政治と社会の実権を、10年間も握った。発言権を失った日本の左翼勢力や北支持の学者らが、韓国左翼の応援に国境を超える。帝国主義的行動だが、韓国の左翼が招き入れる。半島国家特有の、周辺勢力を国内政治に「巻き込む」作戦だ。

親北・反日政権が誕生する


 次期大統領選立候補予定者の支持率は、ソウル大研究所の調査では、第一野党「共に民主党」の文在寅(ムン・ジェイン)前代表23.1%、国連事務総長の潘基文(パン・ギムン)氏18.8%、ソウル近郊の城南市の李在明(イ・ジェミン)市長(野党)16.2%、第二野党「国民の党」の安哲秀(アン・チョルス)前代表8.0%だ。この他に、親北傾向の強い朴元淳(パク・ウォンスン)ソウル市長も、立候補を視野に置く。朴市長は、慰安婦問題の「女性国際戦犯法廷」で北朝鮮工作機関の幹部とともに、重要な役割を演じた。日本の公安当局は「北朝鮮のエージェント」と、疑う。

 韓国政治は、根深い地域対立が基本だ。保守の地盤は、日本海側の慶尚道である。朴正煕、金泳三、李明博、朴槿恵大統領らの故郷だが、今回の事態で分裂し、保守の地盤が失われた。野党と革新・左翼勢力の地盤は、古代百済地域の全羅道とソウル近郊地域だ。全羅道は金大中大統領の故郷で、盧武鉉大統領にも投票した。

 野党候補は、当選のために親北左翼勢力の政策を取り入れる。それは①慰安婦合意の解消 ②日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄 ③在韓米軍撤退 ④反日、反米政策の展開 ⑤北朝鮮経済支援の再開 ⑥開城工業団地の再開-だ。韓国の左翼勢力は、日韓関係の悪化で、北朝鮮が利益を得ると判断する。また「反日」は、南北統一の際の「国民共通のアイデンティティー」になる、と考えている。

 金大中政権と盧武鉉政権は、韓国軍幹部や情報機関幹部を、全羅道出身者や対北融和派、左翼系の人物に入れ替えた。その影響は、今も残る。新聞・テレビの編集局長、報道局長も左翼系の人物に変えさせた。