小林信也(作家・スポーツライター)

 
 巨人が多くのファンの心をつかんで来た理由は何だろう? 勝つこと、どのチームより強いこと、それが最大の要因だと球団首脳自身も勘違いしていないだろうか。

 プロ野球の草創期から、巨人は王者として君臨してきた。優勝回数も圧倒的に多い。だが、人の心を魅了し続けるのは果たして「勝利」という結果だけだろうか。

 日本のプロ野球の歴史を拓いたのは巨人だ。その情熱、パイオニアの挑戦に多くの人が共鳴したのが最初ではなかったか。そして、V9と呼ばれる不滅の9連覇の時代に巨人人気はさらに圧倒的なものになった。V9巨人には、長嶋茂雄がいた。王貞治がいた。バイプレーヤーに柴田勲、土井正三、高田繁、森祇晶らがいて、それぞれ個性を放っていた。ONの華やかな活躍でダイナミックにファンを惹きつける一方、牧野茂ヘッドコーチがアメリカから学んで持ち帰ったといわれる緻密なドジャース戦法が勝利の土台を支えていた。要するに、選手に魅力があり、野球に根拠があった。

巨人のユニホームに袖を通した陽岱鋼。背番号の「2」を左手で作り笑顔を見せる。
左は高橋由伸監督=12月19日、東京都千代田区・帝国ホテル
巨人のユニホームに袖を通した陽岱鋼。背番号の「2」を左手で作り笑顔を見せる。 左は高橋由伸監督=12月19日、東京都千代田区・帝国ホテル
 いまの巨人はどうだろう? 勝つことばかりが使命とばかり、このオフも、DeNAから先発の山口俊投手、ソフトバンクからリリーフの森福允彦投手、日本ハムから陽岱鋼外野手、FA選手を史上最多の3人も獲得したほか、現役メジャーリーガーのアルキメデス・カミネロ投手の獲得も決まり、総額30億円の大型補強になると報じられている。

 カミネロは今季、パイレーツ、マリナーズで活躍。57試合にリリーフで登板し、2勝3敗1S8H。昨季は5勝1敗15Hの成績を残している。平均164.4キロのストレートはメジャーの球速ランク3位。さらに、ウィニングショットのスプリットはほとんど打たれない。今季、スプリットは22打数1安打しか打たれなかったという。正式に決まれば、終盤のセットアッパーかクローザーとして、ファンには頼もしい存在だ。こうした補強を聞けば、来季の巨人は相当戦力アップしそうな気もする。

 不足の戦力は可能な限り補強するのがフロントの務め。しかし、どのような哲学でチームを強くし、魅力的なチーム作りを目指すかをファンは見ている。その姿勢が的外れだと、チームの和は崩壊し、戦力も宝の持ち腐れになる。ここしばらくの巨人はそうした批判や反省から生え抜きの若手を育てる方針を強化し、原前監督の下で一定の新しい成果を生みつつあった。ところが、2年間優勝を逃したこのオフはまた「金の力で」と言われても仕方のない、なりふり構わぬ補強を展開している。

 問題は、加入する選手たちが、「いい選手」「数字を残している」であればいいのか。巨人が求める野球に合っているのか、その選手の加入でチームに新たな活力が湧き上がるのか、といった吟味がされているかだ。