李英和(関西大学教授)

 韓国の朴槿恵大統領は任期満了前の退陣が確実となった。韓国の政局は事実上、次期の大統領選挙に向けて動き始めている。現在、支持率で首位を走るのは最大野党「共に民主党」の文在寅候補。かつて盧武鉉大統領の下で秘書室長を務めた親北急進左派の代表格だ。

韓国の次期大統領選の有力候補の文在寅前代表
韓国の次期大統領選の有力候補の文在寅前代表
 とはいえ文候補の支持率は3割ほど。最大勢力は4割近くの「無党派層」だ。韓国の大統領選挙で下馬評は当てにならない。勝負所は投票日の1週間前の世論だ。この留保条件は付くが、目下の所、韓国世論は大統領弾劾の波に流され、文在寅氏有利に大きく傾く。2期ぶりの親北左派政権誕生が現実味を帯びる。

 そんな政情を眺めて、韓国の内外で心配が募る。金大中と盧武鉉の両政権で10年間続いた韓国政治の迷走ぶりがまだ記憶に新しいからだ。なかでも対北宥和策の「太陽政策」への逆戻りを心配する声が大きい。

 左派政権の誕生を危惧する点では、筆者も同意見だ。国内政治と経済の迷走は避けられそうもない。大衆迎合主義による闇雲な「大企業叩き」が横行しそうだ。そうなると、前例に照らせば、韓国経済は低迷と混乱をきたす。国内政治も不安定化を免れない。

 野党が挙げる朴大統領の弾劾理由は「憲法と法秩序の紊乱」だ。その根拠は「友人(霊媒師)による国政介入」で、国民主権を踏みにじったというもの。そうだとすると、文在寅氏も危うい。見方によれば、朴槿恵大統領をはるかに上回る弾劾理由に発展しかねないからだ。

 金大中政権が500億円以上を北朝鮮に秘密送金した事件では裁判で有罪が確定している。盧武鉉政権でも似たような疑惑がささやかれた。極めつけは、盧武鉉政権が国連の北朝鮮人権決議に棄権票を投じたことだ(2007年)。

 その際、事前に北朝鮮と相談して棄権を決めたことが、当時の外務大臣の回顧録で最近暴露された。「友人の国政介入」どころか、「敵(北朝鮮)との内通」疑惑だ。

 もしも文在寅政権の誕生となれば、新種の弾劾政局が早期に訪れる可能性をぬぐいきれない。そうなると向こう数年間、韓国の政情は不安定が続く。国内での政治と経済の失敗は、韓国民の政権選択による自己責任だ。呆れはするが、他人が口出しする問題ではない。問題なのは「はた迷惑」だ。北朝鮮の核ミサイル問題に及ぼす悪影響である。

 私見では、北朝鮮の核弾頭は既に小型化が完了し、短距離核ミサイルは実戦配備の段階にある。今秋に起きた日本近海への弾道ミサイル3連射はそのことを陰に陽に知らしめるためだった。