著者 aoki fumiya

 11月9日、アメリカ合衆国大統領選挙にて、共和党候補のドナルド・トランプ氏が当確した。「色物候補」として目されていた男が、アメリカという世界随一の超大国の指揮を執る。早くも国内外からは未来への不安と、彼に対する嫌悪の感情を伝えるメディアの動きが喧しくなってきた。

 メキシコ国境にバリケードを築く、イスラム教徒は入国禁止とする…といった現大統領、バラク・オバマ氏なら考えられないような、演説のたびに吐き散らされる暴言。実業家としての放埓さと「力強いアメリカ」を希求する彼に支持を向ける国民は予想を遥かに超える数で存在していた。また、トランプが掲げる「アメリカ主義」、つまりアメリカという超大国がこれ以上他国に口を出し疲弊を被るのはもうごめんだ、それよりも国内の治世に目を向けよう、という一種の不干渉体制に好感を持っている人々は決してステレロタイプな「無教養で流されやすい貧困層」などではない。

 トランプ勝利に喜色満面な人物の筆頭が、現在のロシア連邦を牛耳る「皇帝」ウラジミール・プーチン氏だという。


トランプ米次期大統領(左)とプーチン露大統領
トランプ米次期大統領(左)とプーチン露大統領

「力」の信奉者



 2013年、内戦真っ只中の中東、シリアでは、独裁体制を敷くアサド政権に対しての国際的な風当たりが日に日に高まっていた。ただ、シリアと軍事的、政治的に深いパイプを持つ(シリア西部の港湾都市・タルトゥースには内戦以前からロシア海軍が駐留)。プーチンは一貫してアサド政権を擁護、アメリカを含めた西側諸国との亀裂は深まるばかりだった。

 当時、国務長官であったヒラリー・クリントンはオバマ大統領に幾度となく「シリア内の反体制派組織へ、本腰を入れた援助を向けるべきだ」と進言していたという。しかしオバマはそれを頑なに拒み続けた。まるで中東では何もしたくない、と言わんばかりの態度だった。その間に、シリア北東部のラッカ、さらにはイラクをまたいだ地域に過激派組織イスラム国(IS)が勃興、混乱は世界的に広がっていく。プーチンにとってこれは好機だった。西側の不干渉路線を眼光鋭い「熊」が見過ごす訳がなかった。手始めに、東欧のウクライナにおける騒乱に乗じ、クリミア半島を電撃的に自国へ編入して見せた。

 ソビエト連邦崩壊以降、初となる国境線の変更が、武力により公然と断行されたのだ。1994年の国際合意は、何の意味も成さなかった(ブダペスト覚書。米、英、露、ウクライナ四カ国によるウクライナの領土保全を文書で確約、旧ソ連時代に残置されたウクライナ領内の核兵器を西側の経費負担で処分する代わり、クリミア半島はウクライナ領として侵してはならない旨明記)。

 さらに、特殊部隊を差し向けられたウクライナ東部地域において、「ノヴォロシア連邦」が独立を宣言、政府軍との苛烈な戦闘は未だ継続中である。

 プーチンの思惑通りか、アメリカが主導するロシアへの対抗策は経済制裁のみとなり、軍事介入は無かった。そして、先のシリアにおいてはアメリカのIS対応のもたつきを尻目に2015年に、ロシア空軍による本格的な空爆が開始される。

 これによる多数の民間人の死者は数え切れないが、それでもISはじめ、ヌスラフロント(アル=カーイダ系の反政府武装組織)といった国際的なテロ組織の脅威が騒がれる中、ロシア介入に賛同する声も多く聞かれる。トランプ候補も、以上のようなユーラシア大陸におけるプーチンの影響力拡大路線に賛辞を送っている。