著者 河野素山

 世論調査上の劣勢やいわゆる有識者達の非難にもめげずに、トランプ次期大統領が歴史的な勝利によって誕生する。トランプ氏を大衆迎合主義、ポピュリズムの象徴として否定的にとらえる人々が多い。しかし、彼はそもそも他人に迎合するような性格とは見受けられないし、富が一部に集中する傾向を増していき1%の富者が富の半分を支配するまでに至った世界において、大衆のための政治を行うのは正しいことである。

 選挙戦は、不人気候補者間における非難合戦となり、一見すると政策論争は少なかった。しかし、実はその非難合戦自体が、この四半世紀間におけるPC(ポリティカル・コレクトネス)運動、弱者是正(アファーマティブ・アクション)運動、グローバリズムの流れと、これらに対する地域主義、公平さ、言論の自由、法の支配をもとにした反作用との間で生じたものであって、根本的な価値対立を表した最大の政策論争であった。トランプ氏の勝利は後者らの勝利にほかならない。

マイアミ・デード大学で行われた集会で聴衆にウインクする民主党大統領候補のヒラリー・クリントン前国務長官=10月11日、フロリダ州マイアミ
マイアミ・デード大学で行われた集会で聴衆にウインクする民主党大統領候補のヒラリー・クリントン前国務長官=10月11日、フロリダ州マイアミ
 ヒラリー・クリントン候補は、平成7年の国連世界女性会議における名演説を経て、男女平等運動やPC運動の体現者となった。PC運動は、狭義では差別的用語を廃絶する運動にすぎないが、その用語ポリティカル・コレクトネス(Politically Correct)が評価形態をとっていることにも表れているように、実際には用語是正だけではなく人々の差別的意識や社会における差別的現状まで是正しようとする運動であって、弱者の社会的優遇を正義とする弱者是正運動と結びついている。そして、PC運動の延伸的性質からして、そこでいう弱者は国内にとどまることがなく、国外における弱者救済にまで結びつき、難民受け入れや不法移民への寛容、国外に対する同質的なPC政策の押し付けを経てグローバリズムとも結びつくこととなった。

 ヒラリーを核とするPC運動は、米国初の黒人大統領であるオバマ大統領の誕生に象徴される輝かしい成果と社会変革を成し遂げてきたが、反面において多くの腐敗と抑圧、不正義の温床となった。PC運動は、共通の価値観を広げようとする性質を有するがゆえに、言論の自由や多様な価値観に対する抑圧となりつつあるし、弱者是正運動は、実質的公平さを根拠に一部を優遇するものであって形式的公平さからの逸脱となるが、どの程度の逸脱が公平かについて共通認識はなく、逆に形式的不公平の蔓延が共通かつ透明性のある価値判断を喪失させ、一部の特権階級を生み出しかねない。実際、PC運動と根流においてつながるグローバリズムは、一部の企業に膨大な利益をもたらす一方で、国内における中間層の没落を招いていた。

 さらには、PC運動は、正義を根拠に法を犯したベトナム反戦運動の影響下にある世代において再び法を犯す根拠ともなりうるのであって、法の支配すら危うくしつつある状態だった。ヒラリーを核としていた民主党全国委員会などの協力者達は、予備選を通じて多くの選挙不正を冒したし、本選においても不正な工作に手を染めた疑いがある。ヒラリー自体、クリントン財団への献金や多額な講演料を受けていた一方、国務長官時代には便宜供与を行っていたし、私的サーバーを通じて国家機密漏洩すら行っていた疑いがある。彼女の夫ビル・クリントン元大統領による恩赦事例に照らしても、ヒラリーには大統領就任後さらなる便宜供与が一部から期待されていたことであろう。