2016年末のプーチン大統領の訪日を控え、北方領土交渉をめぐり、ある大物キーマンが浮上した。北方領土の見返りとしてロシア側がこだわっている事業が、日露両国に加え、中国・韓国の4か国を繋ぐ電力網構想だ。

 ロシア側の関心の強さは、去る9月3日にウラジオストクで開催された国際間投資を活発化するための国際会議「東方経済フォーラム」における、プーチン大統領のスピーチにはっきり現われている。
ソフトバンクグループの中間決算説明会で説明する孫正義社長=11月7日、東京都中央区(伴龍二撮影)
ソフトバンクグループの中間決算説明会で説明する孫正義社長=11月7日、東京都中央区(伴龍二撮影)
「ロシア、日本、韓国、中国を結ぶエネルギー網構築に対する各国企業のイニシアチブを支持する。そのパートナーたちにロシアは競争力を持った電力料金を提示し、長期にわたってその金額を固定化する用意がある」

 安倍晋三・首相や韓国の朴槿恵・大統領らを前にそう述べたことで、「ロシアはこの電力網構想を最大の投資案件と考えている」(経産省中堅)と受け止められた。では、プーチン氏はなぜそのアイデアを領土交渉の条件として提示したのか──。それを解く資料を本誌は入手した。資料はA4判で15枚。すべて英語で、1枚目には東アジアの地図とともに「Asia Super Grid Concept(アジアスーパーグリッド構想)」と書かれている。

 これがプーチン氏の電力網構想の下地となるプロジェクトの名前だ。作成者は「ソフトバンクグループ」、4枚目には同グループの孫正義社長と、ロシア最大の送電会社「ロスセーチー」のブダルギン社長の顔写真が載っている。

 実はプーチン氏にとって、孫氏のプロジェクトは渡りに船だった。ロシアは経済的に苦境に立たされている。

 2014年、ウクライナ領土のクリミア侵攻を機に米国、EU、日本も含めた国際的な経済制裁を敷かれて海外からの投資が細り、原油安が経済悪化に追い討ちをかけた。日露交渉で安倍首相が提案した「ロシアの平均寿命の伸長」、「清潔な都市造り」といった8項目の協力提案では、とても領土と引き換えにはできない。

 そこに孫氏が持ち込んだのはケタ違いのプランだ。単なる極東開発にとどまらず、ロシア極東・シベリア地域の有り余る水力による低コストな電力を海底ケーブルを敷設して日本ばかりか中国、韓国にも売る。ロシアにとって極めて魅力的なビジネスだった。資金の裏付けもある。

「サハリンから北海道を通り東京湾に繋げるガスパイプラインの総事業費は、6000億円ともいわれる。孫氏のプランは海中ケーブルの距離が長いため、これより高くなる可能性はあるが、英国の半導体企業を“たかが3兆円”と豪語し買収した孫氏にとって出せない額ではない」(経産省幹部)

 あとはこれを日本政府が同意すれば進む。プーチン氏が9月のウラジオ演説で、「ロシアは競争力を持った電力料金を提示し、長期にわたってその金額を固定化する用意がある」と語ったのは、日本に“領土を返してほしければ、電力を買え”と注文を付けたと同義で、孫ペーパーが日露の領土交渉に大きな影響を与えたといえるだろう。