孫正義の「手土産外交」の狙いはどこにあるのか

『片山修』

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片山修(経済ジャーナリスト)

 世界の舞台で、もっとも影響力がある日本の経営者として、真っ先にソフトバンクグループ社長の孫正義氏の名前をあげることに異論はないだろう。
7月、ロンドンでアーム・ホールディングス買収について記者会見するソフトバンクグループの孫正義社長(ロイター=共同)
 その大物ぶりを証明したのが、12月6日に行われた次期米大統領ドナルド・トランプ氏との電撃会談だ。会談後、トランプ氏は孫氏とともにトランプタワーのロビーに現れ、二人そろって笑顔で写真撮影に応じた。あのシーンは、強烈なインパクトがあった。

 それから、わずか10日後の16日、今度は東京でロシアのプーチン大統領と親しげに肩を組むシーンがテレビ画面に流れた。

 なぜ、孫氏は世界の大物と堂々と渡り合えるのか。答えは、ズバリ、ケタはずれの“手土産”だ。それは、大風呂敷に近い。いや、だからこそ、世界の指導者を惹きつけることができる。

 ソフトバンクグループは13年7月、米国の携帯電話事業3位のスプリントを約1兆8000億円で買収した。続いて、業界4位のTモバイルUSを買収し、顧客規模の拡大を狙っていたが、オバマ政権下、米連邦通信委員会(FCC)の反対で目論見がはずれた。現在、スプリントは収益があがっていない。

 ところが、「米国ファースト」を打ち出すトランプ氏の勝利で、一転、風向きが変わった。Tモバイル買収の絶好の機会がめぐってきたのだ。

 機を見るに敏なる孫氏はさっそく、動いた。米国への約5兆7000億円の投資話の“手土産”を携えて、トランプ氏を電撃訪問したのだ。トランプ氏は自身のツイッターで「マサは総額500億ドルを米国に投資し、5万人の新規雇用に合意した」と発信した。

 孫氏は、プーチン大統領には何度か会っており、“手土産”は、ロシアの電力網構想といわれている。ロシアにとって喉から手が出るほど魅力的なビジネスといえる。

 孫氏の“手土産ビジネス外交”は、米露にとどまらない。7月25日には、英国のメイ首相と会談した。日本企業による海外企業の買収額としては過去最大規模の3兆3000億円で買収した英半導体設計大手アーム社に関して、英国における同社の雇用拡大などを伝えたのだ。9月30日には、韓国の朴槿恵大統領を表敬訪問し、IoTや人工知能(AI)などの分野で、今後10年間に約4600億円を目標に対韓投資を進めることを明らかにした。

 極めつけは、サウジアラビアの政府系ファンドと共同で設立する「10兆円ファンド」だろう。孫氏は9月、来日したサウジアラビアのムハンマド副皇太子と会談し、わずか1か月で10兆円ファンドの立ち上げ合意にこぎつけた。

 サウジアラビアの国家財政は、歳入の約7割を原油輸出が占めるが、ここ2年余りの原油安の影響から厳しい状況が続いている。ムハンマド副皇太子は、「脱石油」を強く打ち出しており、国家の安定に向けて「投資立国」への転換を進める。そこに、孫氏は10兆円ファンド話をもちかけたのである。
世界の首脳たちが飛びつく「手土産」を差し出せる理由

 では、なぜ、孫氏は、各国の首脳たちに、これほどタイミングよく食指を誘う“手土産”を差し出すことができるのか。

 その主要な要因は、孫氏がオーナー経営者であり、即断即決が可能なことのほか、稀に見る行動力の持ち主だからだ。私は、ビジネスのスタートラインに立ち、頭角を現した頃の孫氏にインタビューした経験がある。もう、その当時からオーラがあった。話は、テキパキしているし、質問に対する、よどみない受け答えは、決断力を感じさせた。加えて、その後の孫氏を見ていると、世界のビジネストレンドに対する鋭い嗅覚に目を見張るばかりだ。
1997年3月、テレビ朝日株問題で会見する(左から)ソフトバンクの孫正義社長、朝日新聞社の松下宗之社長、豪ニューズ社のルパート・マードック会長
 孫氏のビジネスセンスのルーツは、シリコンバレーにある。もともと、孫氏は米西海岸と縁が深い。16歳で渡米し、サンフランシスコの高校を卒業、カリフォルニア大バークリー校に学んだ。やがて、シリコンバレーに強い関心を寄せる。そして、ソフトバンク設立後、インターネット関連企業への投資に成長の軸足を置くようになる。彼は、まさにITの申し子といっていい。

 指摘するまでもなく、いまや、ITを抜きにして、国家の成長はありえない。彼は、そのことを百も承知だ。実際、だからこそ、IT企業への投資話に世界の首脳たちは飛びつくのだ。その投資話には、資金的裏付けがある。何兆円であろうが、ヤフーやアリババの株を売却すれば用意できる。

 だから、トランプ氏にしても、プーチン氏にしても、孫氏のために多忙な時間を割く。むろん、孫氏にも、見返りがある。そのへんのところは、抜け目なく計算ずみだ。

 実際、6日のトランプ氏と孫氏の会談を受けて、7日の東京株式市場のソフトバンクの株価は、前日の終値6956円から7387円へと大きく上げ、その後も上昇基調にある。孫氏は、十分に目的を達成したのだ。

 孫氏が代表を務めるソフトバンクは通信会社である。しかし、狙うのは、通信インフラに関する事業にとどまらない。嗅覚バツグンの孫氏の関心事は、いまやAIやIoTなど、IT関連の最先端分野だ。つまり、通信事業を軸にして、小売りやエネルギー、金融など、さまざまなコンテンツで稼ぐビジネスモデルを構築しようとしている。

 ヤフー、アリババ、ガンホーなど、過去の投資実績をみても明らかだ。

 ただし、孫氏のこれまでの“手土産”が必ずしもすべて実現、あるいは成功しているわけではない。例えば、米スプリントや英アーム社の買収は、まだ評価するには早い。孫氏が超大物ぶりを発揮するかどうかは、むしろこれからといえるのではないだろうか。

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