では、なぜ、孫氏は、各国の首脳たちに、これほどタイミングよく食指を誘う“手土産”を差し出すことができるのか。

 その主要な要因は、孫氏がオーナー経営者であり、即断即決が可能なことのほか、稀に見る行動力の持ち主だからだ。私は、ビジネスのスタートラインに立ち、頭角を現した頃の孫氏にインタビューした経験がある。もう、その当時からオーラがあった。話は、テキパキしているし、質問に対する、よどみない受け答えは、決断力を感じさせた。加えて、その後の孫氏を見ていると、世界のビジネストレンドに対する鋭い嗅覚に目を見張るばかりだ。
1997年3月、テレビ朝日株問題で会見する(左から)ソフトバンクの孫正義会長、朝日新聞社の松下宗之社長、豪ニューズ社のルパード・マードック会長
1997年3月、テレビ朝日株問題で会見する(左から)ソフトバンクの孫正義社長、朝日新聞社の松下宗之社長、豪ニューズ社のルパート・マードック会長
 孫氏のビジネスセンスのルーツは、シリコンバレーにある。もともと、孫氏は米西海岸と縁が深い。16歳で渡米し、サンフランシスコの高校を卒業、カリフォルニア大バークリー校に学んだ。やがて、シリコンバレーに強い関心を寄せる。そして、ソフトバンク設立後、インターネット関連企業への投資に成長の軸足を置くようになる。彼は、まさにITの申し子といっていい。

 指摘するまでもなく、いまや、ITを抜きにして、国家の成長はありえない。彼は、そのことを百も承知だ。実際、だからこそ、IT企業への投資話に世界の首脳たちは飛びつくのだ。その投資話には、資金的裏付けがある。何兆円であろうが、ヤフーやアリババの株を売却すれば用意できる。

 だから、トランプ氏にしても、プーチン氏にしても、孫氏のために多忙な時間を割く。むろん、孫氏にも、見返りがある。そのへんのところは、抜け目なく計算ずみだ。

 実際、6日のトランプ氏と孫氏の会談を受けて、7日の東京株式市場のソフトバンクの株価は、前日の終値6956円から7387円へと大きく上げ、その後も上昇基調にある。孫氏は、十分に目的を達成したのだ。

 孫氏が代表を務めるソフトバンクは通信会社である。しかし、狙うのは、通信インフラに関する事業にとどまらない。嗅覚バツグンの孫氏の関心事は、いまやAIやIoTなど、IT関連の最先端分野だ。つまり、通信事業を軸にして、小売りやエネルギー、金融など、さまざまなコンテンツで稼ぐビジネスモデルを構築しようとしている。

 ヤフー、アリババ、ガンホーなど、過去の投資実績をみても明らかだ。

 ただし、孫氏のこれまでの“手土産”が必ずしもすべて実現、あるいは成功しているわけではない。例えば、米スプリントや英アーム社の買収は、まだ評価するには早い。孫氏が超大物ぶりを発揮するかどうかは、むしろこれからといえるのではないだろうか。