現在は企業が国家の後押しを受けて世界に進出する国家資本主義の時代である。私が社長室長だった時代、ビジネスの大きな企てを始める前に、政治トップを押さえる事を常としていた。

 そんなこともあって、「政商」と呼ばれることもあり、孫氏はそれを嫌っていた。だが、孫氏は素直な人である。なんといっても、先に政治を押さえるほうがものごとは上手く進むことを学んだ。ARM社買収時には、イギリスのメイ首相と電話会談にて国内雇用支援の継続を約束。インドでもモディ首相と面談。韓国では朴大統領。そして、中東ではムハンマド副皇太子と10兆円ファンド。そして極め付きが今回のトランプ次期大統領とプーチン大統領である。

 松下幸之助氏は「政治家でも経営がわからないものはダメである。経営者でも政治がわからないものはダメである」と言った。孫正義は政治と経営の二つを見事に使いこなしているといえる。

高転びに転ぶことの危険性


 絶好調に見える孫正義であるが、元社長室長、参謀としてはいささか気がかりなことがある。孫正義は基本的に政治が苦手である。さらにネバー・セイ・ネバーの国際政治は全くといっていいほど苦手である。

 政治は華やかな舞台があり、自らの虚栄心を満たすことができる。だが、満たされた虚栄心と同じ数だけの「嫉妬」が渦巻く。今回、プーチン大統領との親しげさを見せつければ見せつけるほど、政府関係者は憮然としていたという。最も憮然としていたのは、最高権力者である安倍総理だったとのことである。このあたりの深刻さが孫正義は理解できないところがある。
日露ビジネス対話に出席した安倍晋三首相とロシアのプーチン大統領=12月16日、東京都千代田区の経団連会館(桐山弘太撮影)
日露ビジネス対話に出席した安倍晋三首相とロシアのプーチン大統領=12月16日、東京都千代田区の経団連会館(桐山弘太撮影)
 心配して、ソフトバンク関係者に連絡したところ、今回のプーチン、孫正義会談は突然に押しかけたのでなく、政府から呼ばれて行ったということらしいので少し安心した。

 どうも「プーチンサイドが会いたい」と言ったとのことのようだが、単純に旧友に会いたいというだけの理由で呼ぶはずがない。プーチン側から見れば孫正義に何らかの利用価値があったと見るのが国際政治の常識である。それは単純に投資を呼び込むことかもしれないし、安倍総理を牽制することだったのかもしれない。

 戦国時代に、織田信長に面会した安国寺恵瓊は、主君の毛利元就に送った書簡で、信長は五年、三年は持つだろう。しかし、その後に「高ころびに、あおのけに、ころばれ候ずると、見え申候」と述べた。

 世界企業帝国をめざす孫正義が「高ころび」に転ぶことがないことを願うものである。