島田明宏(作家・ライター)

 「人気先行型」はよく見かけるが、これほどの「実力先行型」は、馬でも人でも珍しいのではないか。

 キタサンブラックは、前走のジャパンカップ終了時で、13戦8勝2着1回3着3回着外1回という素晴らしい戦績をおさめている。8勝のうち3勝がGIという、押しも押されもせぬ現役最強馬だ。にもかかわらず、1番人気に支持されたのは、デビュー12戦目、今年10月に行われた京都大賞典が初めてだった。

第36回ジャパンカップを制したキタサンブラック(左)、2着のサウンズオブアース(左から3頭目)、3着のシュヴァルグラン(左から2頭目)=東京競馬場(代表撮影)
第36回ジャパンカップを制したキタサンブラック(左)、2着のサウンズオブアース(左から3頭目)、3着のシュヴァルグラン(左から2頭目)=11月27日、東京競馬場
 なぜ、これほど輝かしい実績を残していながら、単勝人気が上がらなかったのか。脚質というか、レースパターンが、教科書どおりの先行押し切りという地味なものだからか。いや、ニッポーテイオーやメジロマックイーンといったかつての名馬もそうした脚質だったが、圧倒的な支持を得ていた。

 勝つときはいつも小差だからか。いや、ジャパンカップを勝つまでは僅差勝ちばかりだったと言われているが、新馬戦では2着を1馬身4分の1、次走の500万下では3馬身突き放している。

 馬体や走行フォームにどこか頼りないところでもあるのか。いや、530キロを超える雄大な馬体から繰り出される大きなストライドは、この上なく力強い。

 考えれば考えるほど不思議なのだが、勝っても勝っても1番人気にならなかった。昨春、デビューから無傷の3連勝でスプリングステークスを制したのだが、単勝はそれぞれ3、9、5番人気。秋、セントライト記念につづき菊花賞を勝ってGI初制覇を遂げたときも、6、5番人気という低評価だった。

 今年になって、新たな鞍上に天才・武豊を迎えて臨んだ大阪杯は5番人気で2着。次走の天皇賞・春は単勝4.5倍の2番人気どまりだったが、最後の直線で一度は外からかわされながらも差し返し、見事な逃げ切り勝ちをおさめた。前半1000メートル通過が1分1秒8、そこから2000メートル地点までが1分1秒7という、武がつくった絶妙なイーブンラップに助けられた部分もあったが、ゴール前で繰り出した二の脚は強烈で、まさに一流馬にしかできない芸当だった。