五十嵐仁(元法政大大原社会問題研究所教授)

 年の瀬も押し詰まった今頃になって、安倍首相の新たなパフォーマンスが発表されました。最近は失態続きだった外交政策で「逆転ホームラン」の巻き返しを狙っているのかもしれません。

 安倍首相は昨日、今月26、27両日の日程でアメリカのハワイを訪問し、第2次世界大戦で日米開戦の舞台となったホノルル市の真珠湾を訪問すると発表しました。真珠湾ではアリゾナ記念館を訪れてオバマ米大統領とともに犠牲者を慰霊する予定だといいます。併せて、オバマ大統領とは最後になる首脳会談も行うそうです。アリゾナ記念館は、真珠湾攻撃で沈没した戦艦・アリゾナの上につくられています。私も訪問したことがありますが、海の中をのぞくと下に横たわっている船の姿を見ることができます。

 このような形で真珠湾を訪れて「日米和解」を形にして示すことは歓迎すべきであり、大いに評価したいと思います。しかし、戦後70年以上も経ってからですから、「今さら」という声もあるように、遅きに失したという感はぬぐえません。

 せっかく訪問して慰霊するのですから、先の戦争は日米両国の国民に多大の犠牲を強いることになった間違った戦争であったということをはっきりとさせて反省の意を示し、きちんと謝罪したうえで再び戦争を繰り返さず紛争は武力によってではなく平和的な手段で解決すべきことを、全世界に向かって明言するべきでしょう。

 本来は、オバマ大統領が広島に来る前に日本の首相が真珠湾を訪問すべきでした。さらに言えば、それ以前に、戦後和解を掲げて中国の南京や韓国のナヌムの家に行って犠牲者の追悼と戦争への反省、そして謝罪をはっきりとした形にして示すべきではなかったでしょうか。
真珠湾フォード島にある「アリゾナ記念館」と戦艦ミズーリ =米ハワイ州オアフ島
真珠湾フォード島にある「アリゾナ記念館」と戦艦ミズーリ =米ハワイ州オアフ島
 真珠湾への訪問がこれほどに遅れ、中国や韓国に対する侵略戦争と植民地支配への反省が明示されていない原因ははっきりしています。戦後の歴代保守政権が戦争犯罪人の末裔を含んでいたため、戦前の支配層を批判したり戦争を反省したりできなかったからです。それなのに、A級戦犯容疑者の孫である安倍首相がなぜ、真珠湾への訪問を決断したのでしょうか。以前から考えていたそうですが、このタイミングで実行に踏み切った理由ははっきりしています。

 せっかくの「歴史的訪問」でありながら、このような狙いが透けて見えるために、その意義と価値が損なわれてしまうのが残念です。相変わらずの外交の政治利用だというべきでしょうか。

 第1に、退任するオバマ米大統領のご機嫌取りという狙いがあります。オバマ政権が慎重な対応を求めたのに安倍首相は慌てて就任前のトランプさんに会いに行き、オバマさんの機嫌を損ねてしまったからです。そのために、日米両政府に「すき間風」が吹き、直後に訪れたリマで正式の首脳会談を設定できず、立ち話に終わりました。「このまではまずい」と、安倍さんは考えたにちがいありません。