自民党の日本経済再生本部(本部長・高市早苗政調会長)がまとめた政府への提言「日本再生ビジョン」に「プロ野球16球団構想」が盛り込まれた。静岡、北信越、四国、沖縄などプロ野球のない地域に新たに球団を創設。球団数を現行の12球団から16球団とする内容だ。「プロ野球市場の拡大を通じた地域活性化」が目的で、アベノミクスの「第3の矢」の一環として注目されている。夢のある構想ではあるが、果たして実現は可能だろうか。

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 ≪小関順二氏≫

プロ選手の増加を歓迎


 ――16球団構想は以前から提案していた

 「20年近く前から、雑誌などで書いていた。J1だけで18チームあるサッカーと比べても12球団しかないプロ野球は停滞している感じを受ける。世間に訴えるためにも賛成だ」

 ――球団が増えるメリットは

 「プロ選手の数が増える。日本はアマチュアの裾野が広い。高校の野球部をみても、韓国は約50校しかないが、日本は4千校もある。大学野球もあり、近年は独立リーグもできた。レベルはすごく高いが、プロの身分を手に入れられない選手がたくさんいる。毎年、育成選手を除いて約80人がドラフト指名されるが、120人は指名されても良いと思う。高校野球、大学野球の頑張りに報いるために、受け皿を増やすのが一番だと思う」

 ――球団の増加でレベル低下が懸念される

 「最初は仕方がないだろう。米大リーグも30球団に増やした当初は、レベルが低下した。時間が解決する問題だと思う」

 ――球団を新設する地域は

 「提言とは若干違う。アクセスなどの観点から沖縄と四国の代わりに、倉敷マスカットスタジアムのある岡山県と、鹿児島県か宮崎県の南九州が良いと思う。地域密着型の球団運営は、宮城の楽天、北海道の日本ハムなどが成功している。人口が少ない地域は経営が厳しいとの見方もあるが、サッカーをみても人口はあまり関係ない気がする。リピーターが増えればよい話」

 ――日本一はセ、パをさらに東西に分けた計4チームで争う

 「クライマックスシリーズ(CS)の導入で、リーグ3位のチームも日本一の権利がある。勝率が5割を切る可能性もあるが、そのチームを日本一とは呼びたくない。CSはなくしてはいけないと思うが、お客さんに新しいメニューを提示するのは大事」

 ――赤字経営の球団は多いが、手を挙げる企業はあるのか

 「アベノミクスは景気を良くするための経済政策。景気が上向きの時期を前提としているのだから出てくると思う。IT企業など、知名度はないがお金を持っている企業はある。DeNAも知名度が上がった。プロ野球は社会的な影響が大きい。赤字解消のためには、選手の年俸の高騰を抑えるのも必要。日本ハムのダルビッシュ有、楽天の田中将大のように年俸が上がった場合、ポスティング(入札制度)を利用するのも一つの手だと思う」

 ――プロ野球人気の低下が指摘されている

 「逆に、今が全盛期だと思う。特に、パは球場に足を運ぶ客の量がすごい。2004年の球界再編騒動で、ファンが目覚めた感じがする」

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 ≪井箟重慶氏≫

経営の合理化が必要に


 ――今回の構想をどうみる

 「構想自体は良いと思うが、理想と現実は違う。実現にはいろんな問題が山積している。パ・リーグはずっと赤字経営が続いている。セ・リーグもテレビの放映権料が減り、苦しい状況。赤字も1億、2億ではなく、何十億という単位。親会社が宣伝費名目で肩代わりしている球団もあり、真の独立採算にはなっていない。赤字を背負ってまでプロ野球を持ちたい企業があるかは疑問だ」

 ――球団経営は知名度アップにつながる

 「新興企業が一気に全国区になりたいと考えたとき、プロ野球は手っ取り早い。過去にもそういう企業はあったが、数年で手を引いたケースもある。それは、球界のためにならない」

 ――入場料収入のみでは黒字にはならない

 「観客の負担が増えるので、これ以上の入場料の値上げはできない。4球団も増えたら、一時的にレベルは低下する。面白くなければ観客が入らず、収入が減るという悪循環を起こすだろう」

 ――米大リーグは球団を増やして成功した

 「経営が違う。メジャー40人枠とマイナーリーグの選手の給料には大きな差がある。一方、日本は支配下選手が1球団70人。最低でも年俸420万円が保障されている」

 ――赤字解消策はあるか

 「経営の合理化が必要。プロ野球は一般の企業では考えられないほど無駄が多い。オリックスの球団代表だった当時、景気が悪くなり、親会社の役員はグリーン車の乗車を控えた。しかし、プロは裏方を含め全員がグリーン車の球団もあった。廃止を試みたが、選手らから『他球団と比べ待遇が悪い』と反対された。経費の合理化は1球団ではできない」

 ――球団の収入差も大きい

 「巨人、阪神など収入の多いチームは運命共同体の観点から、12球団で利益を分配しようという考えがあればよいと思う。昔、『巨人が強ければ客がついてくる。そのおこぼれを他球団が拾えばよい』と言い切る球団幹部がいた。今は変わったのかもしれないが、球界のリーダーがそれでは厳しい。新規参入する球団が苦労するだろう」

 ――野球の競技人口も減っている

 「大会に参加する少年野球チームが毎年、減っている。野球はお金がかかる。月謝が4万円のチームもあると聞いた。用具代もかかるので、子供が野球が好きでも親がサッカーに転向させるケースもある。プロ野球界は、金の卵がどんどん減っている実態を分かっていない。野球界をアマからプロまで一本化し、底辺の拡大を考えた上で、球団を増やす議論をしていくべきだ」

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小関順二(こせき・じゅんじ)  昭和27年、神奈川県出身。61歳。日大卒。単行本の編集者を経て、スポーツライターに転身。ドラフト戦略に着目するなどプロ野球に精通。著書に「プロ野球問題だらけの12球団」など。

井箟重慶(いのう・しげよし)  昭和10年、岐阜県出身。79歳。上智大卒。平成2~12年、オリックス球団代表を務める。著書に「プロ野球 もうひとつの攻防『選手VSフロント』の現場」。関西国際大名誉教授。