青山繁晴(参議院議員、作家)

 安倍総理の真珠湾訪問は当初、「現職総理として初」とされていた。実は吉田茂、鳩山一郎の両氏、さらには安倍総理の祖父である岸信介氏まで含めいずれも現職総理としてパールハーバーを訪ねていたことが分かった。

 外務省は安倍総理にも、マスメディアを通じて国民にも、間違ってレクチャーしていた。

 日本国外務省に、積極果敢にしてしたたかな外交が乏しいことは多くの国民も気付いている。半面で、事務的なことは日々さぞやしっかり遂行しているだろうと考える人は国会議員にも多い。それがこれである。
慰霊を終え、演説する安倍首相とオバマ米大統領=12月27日午後0時13分、米ハワイ州オアフ島(代表撮影)
慰霊を終え、演説する安倍首相とオバマ米大統領=12月27日午後0時13分、米ハワイ州オアフ島(代表撮影)
 真珠湾への歴代総理の相次ぐ訪問は、その都度、ハワイの地元紙に大きく報道された。しかも米海軍の栄誉礼を受けた事実を考えれば、公式訪問の範疇に入る。これを外務省が失念していたとは開いた口が塞がらない。

  まさしくその真珠湾の攻撃をめぐり、外務省が関係して日本の宣戦布告のアメリカへの手交が遅れ、今に至るまで「卑怯な不意打ち」とされている事実と繋がる、あり得ないはずの不祥事だ。宣戦の遅れは「駐米大使館の怠慢ではなく陸軍と外務省が手を組んで意図的に行った」とする新説などが学者から出ているが、いずれにしても外務省が関与している。

 ただし、この外務省の体たらくがあってなお、安倍総理の訪問の値打ちは下がらない。歴史的意義は失われない。

 理由は三つある。

 まずオバマ米国大統領の、現職大統領として初の広島訪問があっての真珠湾訪問である(ふたつの歴史を同一視するのではないことは後述)。

 また安倍総理はこれより先に、米国の上下両院合同会議で、これは間違いなく現職総理として初めて演説し日米戦争についても語った。そして日米和解の象徴として、硫黄島で戦った米海兵隊生き残りのローレンス・スノーデン海兵隊退役中将と、日本軍のフェアな指揮官だった栗林忠道帝国陸軍中将、その直系の孫である新藤義孝元総務相をギャラリー(傍聴席)に招いて紹介し、満場の拍手を巻き起こした。この拍手の音が耳に残るなかの真珠湾訪問だ。

 さらに世界はたった今、大戦後の秩序が壊れゆく途上にある。英国のEU離脱をはじめ欧州の既存体制の崩壊、米国の大統領選挙が露呈した米国民自らによるアメリカ社会の破壊、これらは大戦の勝ち負けによって作られた秩序が七十余年で終焉を迎え、新秩序への呻吟が始まったことを意味する。

 そのさなか、かつての勝者と敗者の象徴である米国と日本の首脳が呼応し、開戦の地、真珠湾に集うて和解を世界に告げるのには歴代総理の訪問にはない新しい意義がある。それは次の時代への号砲だ。