日比野恭三
iStock
(写真:iStock)
 あるプロ野球選手は、試合中、ベンチで選手名鑑を見てモチベーションを上げるのだという。なぜか? 名鑑には全選手の年俸が書いてあるからだ。

 「アイツ、こんなにもらってやがるのか。絶対打ってやる!」

 プロ野球界とは、残酷なまでに選手の「格」が年俸という数字に表れる世界である。二刀流で活躍する日本ハムの大谷翔平が高卒3年目となる来季には1億円を突破すると見込まれているように、年齢など関係のない非情な実力社会なのだ。相手がナンボほどの“給料”をもらっているのか、それは間違いなく選手を奮い立たせる燃料になる。

補強に積極的な阪神、ソフトバンク


 昨年の日本シリーズがまさに「格差」シリーズだった。

 巨人が年俸総額38億円以上で12球団中1位だったのに対し、楽天は同18億円余りで第10位(年俸は推定、以下同)。たとえば第1戦の先発マウンドに立った楽天の則本昂大(1200万円)と巨人の主砲・阿部慎之助(現役最高額の5億7000万円)の対戦などは、年俸差47.5倍という途方もない開きがあった。

 それでも第7戦までもつれたシリーズを制したのは楽天の方だった。もちろん田中将大という、のちにヤンキースと7年総額約160億円の超大型契約を結ぶことになる絶対エースがいたとはいえ、資金力の面から言えば、見事なまでの「下剋上」を成し遂げたシリーズだったのだ。

 そして今年の日本シリーズには、セ・リーグからはCSファイナルステージでリーグ覇者の巨人に4連勝を飾った阪神が、パ・リーグからは同ステージで粘る日本ハムを振り切ったソフトバンクが出場する。ともに関西と九州に熱烈なファンを抱える人気球団だ。ソフトバンクは3年ぶり、阪神は9年ぶりの出場とあって、地元を中心に大いに盛り上がることは間違いない。

 そんな両球団のもう一つの共通項が、特に近年、積極的に補強を行ってきたことである。

 今季の年俸総額はソフトバンクが37億5100万円、阪神が31億8500万円で、これは12球団中2位と3位にランクインする(1位は巨人の45億1200万円)。昨季4位に沈んだソフトバンクは王座奪還に向けて次々と大物選手を獲得、年俸総額で約13億円を上積みした。阪神は昨季リーグ2位とはいっても巨人に12.5ゲームという大差をつけられた。やはり8億円以上の年俸を加算して今季に臨んでいる。

 両チームの年俸総額には6億円近い開きがあるが、昨年の対戦カードに比べればその差はなきに等しい。今シリーズは大型補強を断行したチームどうしの、日本一をかけたガチンコ勝負と言えそうだ。

阪神打線とソフトバンク投手陣が火花を散らす


 ここで、今シリーズで出場が予想される選手のラインアップを見てみたい。

 まず野手について、年俸、今季成績、そして補強選手の入団年をまとめたのが表1だ。CSのスタメンを参考にして作成した(阪神のDHは独断で新井良太を選出)。表2の投手編は、先発が予想される4人と中継ぎの中心選手3人、クローザー1人の合計8人ずつを比較対象としている。

 野手陣の年俸の合計額に大きな差は見られない。投手陣では阪神の方が高年俸だが、不調にあえぐエース攝津正(年俸4億円)が登板するとなれば一気に逆転する。出場予想選手の年俸対決は五分五分と見ていいだろう。

補強選手の投資効果


 だが「過去2年の補強選手」というフィルターをかけると、両チームの強化方針の違いが表れてくる。黄色で示した通り、阪神はこの2年で野手の戦力を厚くし、ソフトバンクは投手を大幅に強化しているのだ。つまり補強選手に限って見れば、西岡剛、ゴメス、福留孝介らの阪神打線と、中田賢一、スタンリッジ、五十嵐亮太、サファテらのソフトバンク投手陣とが火花を散らす構図が浮かび上がるわけだ。

 彼らは首脳陣の期待の分だけ年俸も高い。補強戦力がその真価を発揮するのは果たしてどちらのチームなのか? そうした視点でシリーズの行方を見守るのも一興だろう。

 レギュラーシーズンの成績に基づいた“投資対効果”を指標に、あえて結果を予想するとどうなるか。ソフトバンクの補強選手たちが年俸に比してまずまずの結果を残しているのに対して、出場24試合に留まった西岡と、104試合に出場して打率2割5分3厘の福留、この阪神の2選手に関しては物足りない成績と言わざるを得ない。

 ならば「ソフトバンク有利」と言いたいところだが、シーズン終盤からCSにかけて、情勢は大きく変わりつつある。今季、西岡が欠場続きだったのは、開幕直後3月30日の試合で負った大ケガが原因だった。二塁後方への飛球を追って、右翼手の福留と激しくぶつかったのだ。開幕3試合目で年俸2億円の西岡が戦線離脱を強いられたのはチームにとっては大誤算だったろうが、CSでは本塁打を放つなどついに復活の時が訪れたことをうかがわせた。福留も、広島とのCSファーストステージ第1戦で前田健太から決勝のソロ本塁打を放ち、鋭い読みと勝負強さを随所に発揮している。

  Getty Images News.jpg
今年の日本シリーズを制するのは、阪神か、ソフトバンクか……
 (写真: Getty Images News)
 メジャー帰りという共通点をもつ2人は「期待はずれ」と批判の槍玉にあがることもしばしばだったが、過去、日本シリーズに複数回出場した実績があり、短期決戦の経験が豊富なのも事実。来日1年目で打点王に輝き、好調を持続するゴメスとともに、“補強打線”爆発への期待は高い。

 一方、シーズン中は健闘してきたソフトバンク投手陣にはほころびが見える。象徴的なのはセットアッパー五十嵐の乱調だ。メジャーで習得したナックルカーブを武器に危なげない投球を続けてきた五十嵐だったが、オリックスとの優勝争いが佳境に入った9月25日の楽天戦で、まさかの5四球4押し出し(1イニングに4つの押し出し四球は60年ぶり、史上5人目のタイ記録だった)。その後の登板での不安定な投球内容から察するに、この時のショックはまだ完全には癒えていないと見る。先述の通り、李大浩と並んでチーム最高年俸4億円を受け取る攝津もシーズン最終登板で3回6失点、CSで2回7失点と絶不調にある今、低空飛行の「鷹」が牙を剥いた「虎」をおとなしくさせられるかは甚だ疑問だ。

 もちろん、昨年がそうであったように、勝負は年俸で決まるわけではない。表には挙げなかったが、ソフトバンクでは飯田優也(育成選手2年目・年俸400万円で契約)、阪神ではルーキーの岩崎優(660万円)と岩貞祐太(1500万円)といった年俸の低い若手投手たちが一軍の先発マウンドを経験しており、彼らが1億円プレーヤーばりの大活躍を見せる可能性も十分にある。逆に、代打起用が予想される阪神の新井貴浩(2億円)などは、数少ないチャンスで存在価値を示したいところだ。

 高給取りが底力を見せつけるのか、それともハングリーな若手が大物を食うのか。大阪と福岡、商人(あきんど)の街で繰り広げられる日本シリーズだけに、そんな“銭勘定”も観戦の楽しみの一つにしてはいかがだろうか。