邱海涛(ジャーナリスト)


はじめに

《徳間書店『中国大動乱の結末』より》
 ここ数年、日本では中国の報道について、かなり悲観的なものが目立つようになってきた。経済の落ち込み、南シナ海をめぐるオランダ・ハーグの常設仲裁裁判所の裁定、国内の権力闘争など、さまざまな問題が取り沙汰されている。

 一方で、「AIIB(アジアインフラ投資銀行)の加盟国が100カ国まで増えそうだ。中国が世界経済を制する」という報道もあれば、「AIIBはうまくいっていない。確実に失敗する」というものもある。その時々や立場によって、かなり論調が異なるものも多い。はたしてどちらが正しいのか。

 筆者の実感では、日本の中国報道については、そのとおりであるものもあれば、現地の実情からしてかなり誇張されているものもある。

 逆に、中国ではあまりネガティブな報道はされない。報道規制で報じられないようなニュースもある。とくに官製報道は、中国の国民もそれほど信用していない。

習近平氏
米大統領選後の11日、北京の人民大会堂で、孫文の生誕150周年の式典で
講演する習近平国家主席。

 たしかに、中国は大きな転換点を迎えようとしている。さまざまな矛盾が顕在化し、混乱もあちこちで起こっている。それだけに情報が入り乱れるのも無理からぬ話なのだろう。

 本書は、筆者が目にしている中国の国内事情、国内メディアや香港メディアの報道、日本のニュースなどとも照らし合わせながら、中国の現状を分析し、今後を予測したものである。

 さまざまな中国報道でも、内外で一致しているのが中国経済の落ち込みについてである。国内は経済の減速がますます目立つようになり、輸出入も低下の一途をたどっている。とくに輸出の落ち込みは深刻で、中国の税関当局が2016年10月13日に発表した9月の貿易統計は前年同月比の10%減で、6カ月連続で前年を下まわった。

 中国政府もこれ以上の経済停滞を避けるべく、さまざまな手を打っている。国内では「城鎮化」という農民政策、対外的には「新シルクロード構想」(一帯一路)やAIIB、あるいは高速鉄道の海外輸出など積極策に出ている。2015年にはインドネシアの高速鉄道建設において、中国が日本に競り勝って受注した。ただし、この高速鉄道については、うまくいっていないという報道が日本でさかんに出ている。

 はたして、これらの経済政策は、今後、うまくいくのだろうか。今後の中国経済に明るい展望があるのか否か。

 また、2016年6月には仲裁裁判所が、中国が主張する南シナ海の領有権について「歴史的根拠なし」という裁定を出したが、これによって中国はどこまで追いつめられているのか。しかも、仲裁裁判所に提訴したフィリピンでは、ドゥテルテ新大統領が選ばれてから急速に中国への接近が進んでいる。このようなきわめて流動的な国際情勢は、どう見るべきであろうか。中国はアメリカとの衝突を想定しているのか。加えて東シナ海では日本に対して何をしようとしているのか。

 さらに混沌としているのが中国国内の権力闘争である。反腐敗運動をてこに、習近平主席はかなりの領域で権力を掌握したと思われるが、2017年秋の中国共産党第19回全国代表大会(党大会)に向けて、はたして思いどおりに改革が実施できるのだろうか。政局が逆転する可能性はないのだろうか。

 本書では、こうした複雑かつ情報が錯綜しがちな問題について、中国国内で入手した情報も交えながら論評を加えている。

 筆者は仕事の関係で、長年、日中の間を行き来し、両国の国柄から民族性、政治、社会制度などの違いについては、よく知っているつもりである。それだけに、日本人が中国の何に関心があるのかということも理解しており、それを誇張なく正確に伝えることができるとも自負している。

 本書が読者の中国理解、現状把握、そして未来分析に役立てば本望である。

 2016年10月中旬 邱海涛