上村直人(高知大学医学部精神科講師)



 最近、高齢者の事故が全国各地で取り上げられ、その背景や対策について各方面からさまざまな領域の専門家の提言やコメントが新聞や報道、雑誌などマスコミにおいて見受けられるようになっている。筆者は、森林率84%という全国一の中山間地域を抱える高知県の地方大学病院で勤務するなか、ずいぶん以前から高齢者、特に認知症の人の自動車運転とその対策について、ジレンマを抱えながら取り組んできたつもりでいる。そこで老年精神医学を専門とする立場から、若干の私見を交えながらこの問題の課題について述べてみたい。

 そもそも私が高齢者、特に認知症の人の運転問題に関わるようになったきっかけは、平成15(2009)年に国内で初めて立ち上がった認知症高齢者の運転問題と権利擁護に関する研究班に参加させていただき、班長である池田学先生(愛媛大学助教授、現大阪大学教授)や、荒井由美子先生(国立長寿医療研究センター)と出会ったことだった。

 その際の研究班の結論は以下のようなものである。(1)多くの認知症患者が運転を継続(2002年改正道交法後も)していること、(2)認知症患者では健常高齢ドライバーと比較して30~40%事故の危険性が増加していると考えられ、運転が危険な高齢ドライバーも免許更新に成功してしまうため、現在の制度では不十分であること、(3)認知症の原因により運転行動や交通事故の危険性に違いがみられること、(4)高齢者(認知症)の運転中止は本人のQOL(生活の質)や家族の生活にも影響が大きく、運転中断後の対策は不十分であること、であった。
高齢者の運転する軽トラックで登校していた小学生らが巻き込まれた事故現場=2016年10月28日、神奈川県横浜市港南区
高齢者の運転する軽トラックで登校していた小学生らが巻き込まれた事故現場=2016年10月28日、神奈川県横浜市港南区
 したがって運転継続が危険な認知症(痴呆)ドライバーを早期に診断・発見し、尊厳ある運転中断方法を作ることが重要であり、取り組むべき課題として、(1)認知症(痴呆)患者に適した正確な運転能力評価方法の確立、(2)認知症(痴呆)患者が運転を中断しても生活できる介護保険などを利用した社会資源づくり、(3)国家的な対策と省庁横断的なさまざまな専門領域の協力体制づくりが必要である、といった内容である。
 
 現在さまざまな提言がなされているが、今振り返ってみても解決のための手法はほとんど変わっていないように思える。そしてたとえ高齢であっても、認知症のような病気があっても、運転免許は運転能力で評価・判断すべきである、ということである。

 その後、高齢ドライバーに対する対応として、警察庁は2009年から75歳以上の高齢者の免許更新に際して、講習予備検査(認知機能検査)を導入し、記憶や判断力の低下が見られた場合は、認知症かどうかを診断する臨時適性検査を受けるよう義務付けた。このような制度は世界的にみても例がなく、充実した制度であるが、これまで認知症と診断されて免許の取り消しや停止となったケースは、65歳以上の高齢ドライバーが2014年に1600万人を超えたことを考えても、極端に少ないと言えるだろう。

 2014年6月からは医師が認知症と診断した場合、任意で都道府県公安委員会に通報を行うことが可能となり、診断書提出により運転中断や免許停止とすることも可能となっているが、この任意通報制度の利用自体もまだまだ少ないといわれている。そこで2017年の3月からは改正道路交通法の施行により、臨時適性検査の対象が大幅に拡大され、講習予備検査で認知症と疑われた場合、すべての高齢者が医師の診察を受けるようになる。
 
 数値的には現在年間200-300人程度が認知症かどうかの判断を警察から医師に要請されていたものが、新制度では年間6万5000人と100倍程度に著増すると予想されているが、認知症専門医の不足、行政コストの増大など懸念されている課題も多い。同時に、今回の改正はある面、認知症の早期発見・早期診断につながる可能性も大きく、一定の成果が期待されている。