小早川悟(日本大学理工学部教授)

 近年、高齢ドライバーの交通事故のニュースには枚挙にいとまがない。高齢ドライバーの免許を強制返納させればよいといったような意見もあるが、高齢ドライバーの事故は複数の問題が複雑に絡み合っており、その対策はそう簡単ではないように思われる。

 高齢ドライバーの事故の話をするときに、よく出てくるキーワードに「認知機能」という言葉がある。ドライバーは、「認知」→「判断」→「操作」という機能を繰り返しながら自動車を運転している。ここでの「認知」とは、周りの状況を把握するという意味であり、運転中に入ってくる様々な情報を受け取れている状態を示している。そのうえで、進むのか停まるのかといった「判断」を行い、最終的にブレーキやアクセルあるいはハンドルの「操作」を行っている。
暴走して大破した高齢女性運転の車=2016年11月、東京都立川市
暴走して大破した高齢女性運転の車=2016年11月、東京都立川市
 2017年3月から施行される改正道路交通法では、75歳以上の高齢ドライバーに対して、認知機能が低下した際に行われやすい一定の違反(信号無視や通行区分違反など)をした場合に、臨時認知機能検査を行うことが定められた。この場合の認知機能検査で使用されている「認知」という言葉は、前述した「認知」とは、若干ニュアンスが異なってくる。この臨時認知機能検査により、認知症のおそれがあると判断された場合には、臨時適性検査(医師の診断)を受けるか、主治医等の診断書を提出しなければならないとされる。

 この改正により、これまでは運転免許の更新時にしか行われなかった認知機能検査が、ある一定の違反行為があった場合にも実施されることになり、より頻度の高い検査の実施が可能となった。また、臨時認知機能検査によって認知症のおそれはないものの検査の結果が悪くなっている場合には、臨時高齢者講習を行うこととなっている。

 この仕組みは、基本的には認知症のおそれがある高齢ドライバーを探し出すことには有効であると考えるが、それ以外の高齢ドライバーへの対策としては不十分である。高齢ドライバーの特徴や事故発生状況等の分析を行うことで、「認知症」ではないが「認知機能が低下」している高齢ドライバーへの対策を今後さらに考えていく必要があろう。

 今回の改正道路交通法では、認知症と認められた場合や臨時適性検査または医師の診断を受けない場合には、免許停止や取り消しを含む行政処分の対象となる。しかし、現状ではすべての高齢ドライバーに対して免許の「強制返納」をおこなうことは困難であり、あくまで「自主返納」に頼っている状況にある。

 その理由のひとつに、都心部の人々は自動車がなくても生活していくことができるが、公共交通機関が発達していない地域で生活している人々にとっては自動車が生活必需品であることが挙げられている。公共交通機関の空白地域(または不便地域)の問題は、地方部の自治体が抱える大きな問題となっている。

 もともと公共交通機関は、マス・トランジット(大量交通機関)を前提に考えられており、ある程度の利用者数が見込めないと維持管理をしていくことが困難となってしまう。そのため、民間の鉄道会社やバス会社が人口密度の低い地域で路線を維持していくことが困難となり、各自治体が税金を使ってコミュニティバス等を走らせている。