邱海涛(ジャーナリスト)

《徳間書店『中国大動乱の結末』より》
 南シナ海問題では、2016年7月、仲裁裁判所がフィリピンの提訴に対して、「中国が主張する領有権は認めない」という裁定を出した。

 中国の地方都市ではいくつか小規模の対米抗議デモがあったものの、まもなく取り締まりによって姿を消した。おもしろいことに、翌日になってアメリカ、日本、中国の株市場では株価がいっせいに大きく値上がりした。

 フィリピンが仲裁裁判所に提訴したのは2013年1月で、同裁判所は2015年10月に本格審理入りすることを決めた。そのときから中国が悪戦苦闘を強いられることになった。

 中国政府は最初から不利な結果が出るだろうと予測していたため、あの手この手でフィリピン側の提訴を阻止しようとした。

南シナ海に人工島を造成、中国の実効支配が進む
南シナ海に人工島を造成、中国の実効支配が進む
 中国はWTOなどの経済分野での国際訴訟については、一応、対応する姿勢を見せているが、人権や領土などをめぐる国際裁判への提訴には、いっさい応じない立場をとっている。基本的に中国は国際裁判所を欧米の傀儡だと決めつけており、まったく信頼していないからだ。

 そのため、フィリピンを原告とする南シナ海紛争の国際裁判について、中国は「4つのしない」を貫いてきた。すなわち、「裁判に応じない、相手の提訴を認めない、判決の結果を受け入れない、判決の処罰に従わない」という外交姿勢である。

 だから、中国側は裁定が出る前から「裁定は紙くず」だと宣言していた。中国は国連安全保障理事会の常任理事国であり、国際裁判所が判決文1枚で巨大な特権を持つ常任理事国の勝敗を決めるなどということは、中国にとってとても考えられない不面目なことなのである。

 加えて、中国が国際裁判を拒否するのは、次のような懸念があるからである。まず、フィリピンが主張している島の領有権の範囲は、南シナ海の約3分の1にもおよんでいるので、南シナ海の全体を支配しようとしている中国にとって当然、受け入れられない。

 また、中国はファイアリー・クロス礁、スビ礁、ミスチーフ礁などに莫大な投資をして7つの人工島を建設しているが、裁定に従うならば、そのうちのいくつかの島をフィリピンに返さなければならない。

 南シナ海問題は、フィリピン、ベトナム、マレーシア、ブルネイなど、7~8カ国が権利を主張している複雑さがあり、フィリピンが勝訴すれば、フィリピンの真似をする国が現れる恐れがある。これを中国は非常に警戒しており、そのために仲裁裁判所自体を否定しているのである。