小泉純一郎元首相と産経新聞の長辻象平論説委員が日本のエネルギー政策などをめぐり対談した。「原発ゼロ」を掲げる小泉氏は「原発に頼るより、さまざまな自然エネルギーに頼る社会を実現できるチャンスだ」と述べ、原発をすぐに止めるべきだとの持論を強調した。長辻氏は「完全に原発ゼロではなく、今後は新しく安全な原発を造っていこうという考え方があってもいい」と主張。2人の対談は予想外の方向に着地する。(以下、敬称略)
2016年4月、原発やエネルギー問題について対談する小泉純一郎元首相(右)と長辻象平論説委員(寺河内美奈撮影)
2016年4月、原発やエネルギー問題について対談する小泉純一郎元首相(右)と長辻象平論説委員(寺河内美奈撮影)
長辻 エネルギーについて今日、話すことになると思いますが、エネルギーというのはずいぶん不思議な言葉なのですね。というのは、日本語になったことが一度もないのです。

小泉 そうかぁ。

長辻 実に不思議なんですよ。明治から使われている文献をいろいろ調べてみたのですけど、一度も翻訳されたことがない。

小泉 不思議だねえ。

長辻 成功していないのですよ。つかみどころがないんですね、この言葉の概念が。

小泉 そうかぁ。

長辻 熱になったり、力になったりですから。現代のもろもろのエネルギー問題の難しさも、やはり言葉にひとつ端を発しているんじゃないかなと私、ずっと前から思っているんですよ。

小泉 それは初耳。

長辻 でも、中国はうまく訳しています。漢字しかないから。

小泉 何て言いました?

長辻 能源(のうげん)。能力の源。

小泉 あ、そう!

長辻 非常にいい言葉でしょう。

小泉 ふ~ん。能力の源ねぇ。

長辻 では、本論の原発問題に移って、私から質問していいですか。

小泉 いいよ、もちろん。

長辻 3・11(東日本大震災)を機に小泉さんの原子力に対する考え方は変わったと思う。さらにその後、フィンランドのオンカロ(使用済み燃料の最終処分場)をごらんになって、日本ではこういう地下処分場を造るのが難しいと。だから即、原発ゼロの方がいいんだよ、ということをおっしゃり始めたんですよね。

小泉 うん。

長辻 具体的には、どういう部分でそう思われました?

2016年4月、「原発ゼロ」社会の実現を訴える小泉純一郎元首相
(寺河内美奈撮影)
小泉 フィンランドってのは、岩盤でできている国ですよ。その岩盤から下まで約400メートル掘ってね、その下に2キロ四方の広場を作って、そこに原発の廃棄物を埋めるんだけど。そのオンカロもね、(原発)2基分の核の廃棄物しか埋める容量ないんだよ。それでね、400メートル掘って10万年保管するっていうのは、まず日本で探すの、ほとんど不可能と。

長辻 と、思われた。

小泉 うん。それと同時に、安全、コスト安い、クリーン、全部ウソだと分かった! これが一番。専門家がずっと説明していたのが全部ウソだと分かった。第一ね、あの事故以来5年たった。事故から2013(平成25)年9月まで2基しか動いてなかったが、東京も大阪も停電が起きない。やっていける。5年間ゼロで。

長辻 それは、運が良かったということもあるんでしょう。

小泉 運が良かったって、現実、できちゃったんだ、5年間。

長辻 綱渡りですよ。

小泉 やればできた。

長辻 政治が方向を示せば、知恵のある人が英知を出してくれる、と小泉さんはおっしゃった。

小泉 出てくる。その証明ですよ、この5年間は。ドイツは原発ゼロを宣言したけども、まだ何基か動いてる。日本は実質ゼロでやっていけるということを、証明しちゃってるんだ。

長辻 でも6年、7年になると無理かもしれない。

小泉 それはね、あなたの議論でいいよ。それ、書いてくれればいいや。一般庶民、一般国民がどう判断するかだから。まさに世界に冠たる自然エネルギーを電源にしてね、経済発展できる姿を見せる。原発に頼るよりも、太陽光、風力、地熱、さまざまな自然エネルギーに頼る社会を実現できるチャンスだ。

長辻 でも、ドイツは脱原発ですけれど、中国がすごい勢いで今やろうとしてますよね。

小泉 それは非常に、日本にとって懸念があるんですよね。事故起こしたら日本に来るから、放射能が。

長辻 来ます。それと、中国大陸だけでなく、世界中に建設しようとしていますからね。

小泉 あれは非常に懸念材料ですよね。

長辻 中国が、安全性に疑問を抱える原子力プラントを、いろんな所に建設するんだったら、日本がきちっとした技術で造った方が…。

小泉 そういう懸念材料は、やんない方がいいね。自然のエネルギーをやればできるんだから。原発に投じた金を、自然エネルギーに向ければ、日本は必ずゼロにできます。そして太陽光、風力、地熱とかね、やっていける。

長辻 でも、原発は危険だとおっしゃいましたけれど、日本に実は高温ガス炉という安全性の極めて高い原子炉があるんですよ。平成10年に臨界に達していて、大洗(茨城県)にあるんですけれど、ほとんど存在が知られてない。非常に先進的な原子炉で、一切水を使わないんですよ。

小泉 うん。

長辻 水が不要なので砂漠の真ん中にも造れます。それから全電源喪失でも、炉心溶融が起きません。普通の原発のように海岸に造る必要はなく、津波の心配もない。過酷事故が起きないので大規模な避難計画も必要ないということで、3・11(東日本大震災)以降、にわかに注目され始めてまして、日本が今、トップ技術を持っている。

小泉 うん。

長辻 こういう新タイプも含め、完全に原発ゼロではなく、軽水炉にある程度の区切りをつけるとしても、今後は新しく安全なものを造っていこうという考えがあってもいいんじゃないかと。

小泉 それは民間が自分のカネでやるなら、どんどんやってもらえばいい。

長辻 究極の原子力エネルギーは核融合ですよね。しかし、核融合発電には今のところ技術的に乗り越えられない壁がある。

 太陽光や風力などの再生可能エネルギー利用拡大に当たっては、高温超電導技術を電気の貯蔵に使いたいのだけれど超電導の高温化が壁に当たっています。

小泉 それは、原発よりは易しいと思いますよ。

長辻 どういう理由でですか?

小泉 原発を乗り越えた日本人の知恵でね。今までできないことを、ピンチをチャンスに変えてきた。

長辻 しかし、再生可能エネルギーは太陽光にしても風力にしても、今の技術では、安定的に使うのが難しいですよ。

小泉 そうでもないよ。今アメリカなんかね、高速道路で太陽光発電をやろうと実験が始まった。自動車が走る舗装面を太陽光発電に使おうと。もし日本でこれやったら、高速道路だけで全部電源まかなえちゃうんじゃないか?

長辻 あとは安全保障。日本は世界から核の潜在保有国とみられている面があるので、その元になっている原発をなくした場合は安全保障上、不利でないかという考えがありますが、その辺りはどうですか。

小泉 それは私は全く違う。核兵器を持って安全かと。私はそうは思わない。原発を造っていれば安全かと。そうは思わない。日本に原発もない、核兵器もないから不安かと。そうは思わないね。