藤村陽(神奈川工科大学基礎・教養教育センター教授)

 原子力発電の使用済み核燃料には、発電のためにエネルギーを生み出したのと引きかえに大量の放射性物質が蓄積されている。強い放射線が出ているため、遮る厚い金属の壁などがなければ、人間は近づくこともできない。年月とともに使用済み核燃料中の放射性物質の量は減っていくが、それらが人間の生活環境に放出され、多量に摂取されることがあれば健康被害につながる。

 使用済み核燃料は、原子力発電に関連して発生する放射性廃棄物の中でも放射能が桁外れに強いため、特に高レベル放射性廃棄物と呼ばれる。半減期が100万年以上の放射性物質も多く含まれており、最終的な処分が大きな問題であったが、その方法が確定されないまま世界各国で原子力発電は進められてしまった。
 この問題を簡単に解決する画期的な方法はなく、原子力利用を推進する国際機関では、地下数百メートルに高レベル放射性廃棄物を埋設する「地層処分」ならば、将来、人間の手による管理は不要であるとし、自国で地層処分を実施することが各国の目標となっている。しかし2016年末現在、処分施設の建設地や候補地が決まっているのはフィンランドとスウェーデン、フランスだけで、これらの国でもまだ埋設は始まっていない。

「高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センター」で点検作業を行う作業員ら。オレンジ色のふたの下には海外に使用済み燃料の再処理を委託し戻されたガラス固化体が千本以上保管されている=2012年 12月、青森県六ケ所村
「高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センター」で点検作業を行う作業員ら。オレンジ色のふたの下には海外に使用済み燃料の再処理を委託し戻されたガラス固化体が千本以上保管されている=2012年 12月、青森県六ケ所村
 日本では、2000年に事業実施主体の原子力発電環境整備機構(NUMO)が設立され、2002年から処分地選定の公募を始めているが、応募後に取り下げられた2007年の1件を除いて、自治体からの応募は得られていない。こうした状況に対して、2015年5月の閣議決定で、政府が前面に立ち、科学的により適性の高い地域を「科学的有望地」として示し、処分地選定のための調査への協力を自治体に申し入れるとされた。科学的有望地の要件・基準は2016年8月には取りまとめられたが、その示し方や位置づけについて、2016年末現在、議論が続いている。

「本音」でなければ信頼は得られない


 科学的有望地という表現は、処分地として適性が高い方から特に選ばれた地域のように響くが、実態は、火山や活断層の近傍、隆起・浸食が非常に大きい、地温が非常に高いなど絶対に避けるべき特別な範囲を除いた残り大多数の地域にすぎない。積極的に選ぶべきという意味での有望地は、実際に地下を掘り、処分場を設置する地下環境をよく調べなければわからないのである。

 地層処分について、筆者の結論を先に述べると、一般論としては想定されている安全性をもちうるとは考えるが、不確実な要素も多い。不運な事態が重なれば、処分場から漏れた放射性物質によって未来の人類が影響を受けることも、可能性は低いが想定しうる。それ以前の根本的な問題として、これまでの原子力発電の推進のあり方に大きな問題があったのと同様に、安全性を最大限に優先した処分地選定や操業がなされることには懐疑的である。

 「地層処分は安全」とだけ強調した広報は、安全性をないがしろにする姿勢である。長期にわたる事業への信頼は、懸念材料を本音で語りながら進めることでこそ得られる。さらに大きな問題として、地層処分事業が始まったとしても、高レベル放射性廃棄物の問題がすぐに解消するわけではない。抱えている問題は多く、将来世代の負担も残る。したがって、地層処分はあくまで消極的な選択であり、このようなかたちでしか高レベル放射性廃棄物の後始末ができないのであれば、処分場が1か所で済むうちに、原子力発電利用の縮小、撤退を目指す必要があり、原子力利用のアキレス腱が解消したかのように推進に拍車をかけることがあってはならない。