安全性の判断材料である将来の人類の被ばく線量は、放射性物質が処分場からどれだけ漏れ、そのうちのどれだけが地表付近に届き、その地域の住民が生活環境に広がった放射性物質をどれだけ摂取するかといった要因すべてが組み合わさって決まる。これらの要因に影響を与える地質環境などの条件の組み合わせには無数のパターンがあり、現実にそのうちのどれが起きるのかを予測することは不可能である。

 地層処分の安全性の説明で、将来の被ばく線量が最大になるのは80万年後で、1年あたり0.000005ミリシーベルト(後述のTRU廃棄物を考慮すれば1万年後に1年あたり0.002ミリシーベルトと言うべき)にすぎず、現在の自然放射線による被ばく(1年あたり約2ミリシーベルト)より何桁も低いといった具合に示されるのは、無数の仮想的な試算の中の標準例の1つにすぎない。悪い条件が重なれば、確率的には低くても、そうした標準例の100倍や1000倍以上の被ばくになることもある。

 特に最悪の想定が重なったようなケースとして、地震を起こした断層が処分場を直撃し、埋設された廃棄物が金属容器もろとも破壊され、漏れ出た放射性物質がその断層に沿って非常に速く移動し、放射性物質の濃度が濃い水源を利用する生活環境というような極端な想定では、福島第一原発事故での特定避難勧奨地点にあたる被ばく(1年あたり20ミリシーベルト)に近い値も計算上は出てくる。起こりうる可能性が天文学的に低くても、悪い想定をこのように機械的に重ねた上限のようなものも示しておいたたほうが、長い目で見れば、信頼を得られるように筆者は考えるが、関係者の考え方は分かれるようである。

幌延深地層研究センター。エレベーターで地下350メートルへ。
幌延深地層研究センター。エレベーターで地下350メートルへ。
 地下300メートルより深くにつくられる処分場は、20年程度の調査のあと、建設から埋設開始まで10年程度はかかる。6~10平方キロメートルの広さに、総延長が200キロメートル以上にも及ぶ坑道を段階的に掘削し、50年ほどかけて廃棄物を埋設し、埋め戻しにも10年程度を要する。こうした工程が、すべてトラブルなく進むとは限らない。岐阜県瑞浪市の日本原子力研究開発機構の地下研究施設では予想外の湧水が続き、当初計画の深さまで立坑を掘ることができていない。筆者は以前に地層処分関係者から、坑道の掘削で湧水が生じても、地下水が運ぶ鉱物などで亀裂はふさがれ、湧水は自然に止まると聞かされていたが、瑞浪の現実はそうではなかった。

 このような湧水は、坑道の埋め戻しをすれば掘削前の地下水の流れが遅い状態に戻るとされているが、これだけの規模の坑道をきちんと締め固めてすべて埋め戻すことは、前例のない工程である。きちんとした埋め戻しによって、放射性物質は地下水によって移動しにくくなり、地下が酸素の少ない環境に保たれ、金属容器の腐食を防ぐなどするので、不十分な埋め戻しは天然バリアと人工バリアの機能を低下させかねない。

警戒すべきは埋設後だけじゃない


 地層処分については埋設後の安全性に関心が集まるが、操業中の地上施設では、放射能が強い高レベル放射性廃棄物を遠隔操作によって格納容器から取り出す工程がある。このような作業中に、大地震などによって施設が大きなダメージを受け、高レベル放射性廃棄物を遠隔操作可能な状態に復旧できないようなことがあれば、施設内部に人間が立ち入れず、修復に手をつけられない事態に陥る。そのことで直接、近隣住民に健康上の影響を及ぼすわけではないが、地域にとっては有難くないものが長期にわたって残されることになってしまう。