また、原告側は2審で非常に卑怯な手段を取った。教諭の控訴だけを取り下げ、教諭の反論権を奪ってしまったのだ。これは教諭にとって決定的に不利な状況だった。裁判はこれで確定したが、実は、事件はこれで終わったわけではなかった。

 教諭が福岡市に行っていた不服申し立ての判定が事件後10年近くを経た13年1月、申し渡されたのである。福岡市人事委員会は審理の結果、教諭が行ったとされる体罰やいじめをはっきり否定。停職6か月の処分をすべて取り消した。教諭の冤罪はようやく晴れたのである。判定書では、保護者側の抗議の真偽を十分に検討、検証もしないまま、その要求を次々に受け入れ、他方、教諭には謝罪を迫ったとして、校長、教頭を厳しく批判している。

 私が遭遇したもう一つの事件は、2005年、長野県の丸子実業高校で起きている。高校1年の男子生徒が同年12月に自殺した。母親は、息子が所属していたバレー部の先輩のいじめと暴力を苦にして自殺したと主張し、新聞やテレビはこぞって彼女の涙ながらの訴えを取り上げた。

 しかし学校側は、いじめや暴力行為を否定。両者が真っ向から対立して大騒動になった挙句、母親が校長を殺人罪で告訴し、さらに、学校を管理する長野県と校長、いじめや暴行をしたとされる上級生とその両親を相手取って、1億3800万円もの損害賠償を求める民事訴訟を起こした。

 これに対してバレー部の顧問、部員、保護者たちは、いじめは事実無根だとして、この母親を逆提訴した。まさに前代未聞の事態に、ネットではこの母親に多くの同情が集まり、支援する会も結成された。

 一方、「いじめ加害者」の学校、校長、バレー部に対しては非難と罵詈雑言が浴びせられ、ことに、母親を逆提訴したバレー部に向けては、「加害者による逆恨み訴訟」「逆切れ訴訟」といった容赦ない言葉が投げつけられた。

 だが、校長への告訴は不起訴となり、09年3月に言い渡された民事裁判の判決では、母親側がほぼ全面敗訴した。母親の言動に矛盾が多く、いじめの証拠もなく、目撃証言も皆無だったからである。母親の支援者たちは呆然とし、判決文をろくに読むことなく、「不当判決」だと息巻いた。

 つまり、このいじめ事件も事実無根であり、すべては母親の虚言が生んだものだった。この母親は、男子生徒が生きていた頃から、学校に対して、すさまじい恫喝と嫌がらせを繰り返し、学校は崩壊寸前だったのである。そして恐ろしいことに、この母親こそが、男子生徒の自殺の要因になった可能性が濃厚なのだ。

 この2つのケースを検証すればするほど、よくもまあ、世間もマスコミも弁護士も精神科医までもが、いとも簡単にモンスターマザーに騙されたものだとつくづく感心してしまう。虚言癖の人間は、自分で自分のうそを信じ込んでいるかのようにしゃべるため、彼らの話にはそれなりの迫真性と説得力があるのだ。