菅原悟志(B&G財団専務理事、大正大学客員教授)

 運動が苦手で動きが鈍いため「トロ(い)」、体が太っているので「ブー」、田中くんは宰相にあやかり「角栄」。小学校のころ友達同士いろいろなあだ名で呼び合い、そこには親しみがあった。だが、こちらは「いじめ」だ。それも教師による。

 東京電力福島第1原発事故の影響で避難生活を余儀なくされている子供たちはいまなお数多くいる。その中で新潟市に自主避難した男子児童が同級生から名前に「菌」を付けて呼ばれ、いじめを受けていた。児童は担任教師に「黴菌(ばいきん)扱いされている」と打ち明けた。ところがだ。担任までこの児童だけ名前の後に「キン」を付けて呼んだという。クラスみんなの前で。

 事実なら常識を疑う。「黴菌を指す意図はなかった」と担任は弁明したが、事前に児童から相談を受けていたことや横浜市の小学校でも同様のいじめが報告されたばかりだ。「意図はない」は言い訳にならず、教師によるいじめと言われても仕方あるまい。

担任が児童の名前に「菌」を付けて呼んでいた問題で、
謝罪する小学校の校長=2016年12月2日、新潟市
担任が児童の名前に「菌」を付けて呼んでいた問題で、 謝罪する小学校の校長=2016年12月2日、新潟市


 家族と離れ友達と別れ、慣れない地で寂しい思いをしながら生活している子供も少なくない。教師という立場にありながら社会問題化するいじめへの認識が不足し、被災者への思いやりに欠ける発言はあまりに軽率で鈍感だ。いじめられるつらさを共有できていないことを重く受け止めるべきである。子供は残酷だ。意味を理解せず、相手が傷つくことも気にせずに言葉を発してしまうことが多々ある。未熟なのだ。だから間違える。それをしっかりと教え正しい方向へと導くのが教師や親の役目であることを忘れてはいけない。

 子供や保護者の意識の変化に伴い教育現場を取り巻く環境も大きく変わり、教師や学校の質がかつてないほど問われている。現在少子化により公立小中学校の教職員数について議論が行われ、削減を求める財務省に対し、文部科学省は反論する。だが数の議論よりも教員の「質」にこそ目を向けなければ学校への信頼感は高まらない。福島から避難した子供たちに対するいじめが各地で相次いでいるが、元小学校教師の佐野祐介さん(50)は「学校は集団一律教育のためクラスでは横並びの意識が強く目立つ子はいじめられることがある。避難してきた子は周りから好奇の目にさらされるため、いじめの対象になりやすいのかもしれない」と話す。

 横浜市の場合は同級生から原発事故の「賠償金があるだろう」などと言われ、ゲームセンターでの遊興費を払わされていた。千代田区では「避難者だとばらすよ」とお菓子などをおごらされていた。いずれもいじめられるのが嫌で大切なお金を払わさざるを得ない状況にまで追い込まれていたのだ。学校だけでなくいじめる側の親にも責任があることは言うまでもない。

 行うべき躾(しつけ)や子育てなど家庭教育にも問題がある。多額の賠償金がもらえる、放射線に汚染され感染するなど、原発被災者への偏見や中傷、放射線に対する誤解はいまだに存在する。子供の世界ではなく社会全体の問題だ。「家庭や周りの大人から聞いた話を子供は真に受けてしまうものだ」と佐野さんは言う。大人の無知や無理解、そして心の奥底に潜む差別意識がいじめの助長につながることを自覚すべきである。

 いじめを受けている子供の多くは今でも心と体に深い傷を負いながら戦っている。教育の場とはいえ学校だけに任せるのではなく家庭でも社会でもしっかりとこの問題に向き合わなければ苦しんでいる子供を救えない。それができるのは私たち大人しかいないのだから。

すがわら・さとし 大正大学客員教授。日本ゲートボール連合理事。海事科学振興財団(船の科学館)監事。