片山さつき(参議院議員)/ 城 繁幸(Joe's Labo代表取締役)/ 赤木智弘(フリーライター)

“河本問題”に寄せられた声


 片山 近年、生活保護の急増が社会問題になっています。2008年には151万人だった受給者が2011年には210万人、総受給費も2008年の2.7兆円から、2012年度予算では3.5兆円に増えています。

 そうしたなかで、タレントの河本準一さんの母親が、生活保護を長年にわたって受給していたという報道がありました。私は自民党「生活保護に関するPT」のメンバーであり、この問題を看過できないと思ったことから、厚生労働省の生活保護担当課長に調査を依頼し、その旨をブログで発表しました。そうしたところ、数百件にも及ぶすさまじい反響が来るようになったのです。

 その内容の大半が、「年収ウン千万円の一人息子が親を養わないなら、誰でも生活保護がもらえることになる。おかしい」「本当に困窮していない人に生活保護を支払うのなら、税金を払いたくない」という、社会的不公平に対する抗議でした。

 経済的困窮者に対して、民法877条では「親族の扶養義務」を定めています。多くのテレビ番組に河本さんの「生活の贅沢さ」を示す証拠が残っており、母親を養えないわけがない。指摘を受けて河本さんは一部を返還すると発表しましたが、やはりこうした行為は、社会常識に反するように思います。

 赤木 目下のところ、「親族の扶養義務」が論点になっていますが、私はその流れに違和感を覚えます。もしそれを定めてしまえば、親族全員が貧乏だけど一所懸命頑張って成功した人が、全員を養わなければならなくなる。一方、周囲がみな、ある程度裕福な家庭の人は、稼いだお金を自由に使えます。こちらのほうが不公平ではないでしょうか。

 片山 もちろんそれも含めて、生活保護に関する矛盾は昔からいくつもあります。たとえば、在日外国人にも支払うか、否かという問題です。それでも1990年代までは全体の総額は1兆円台半ばで、矛盾を残したままでも制度が回っていくレベルでした。ところが3兆円を超える規模になると、もはや看過できなくなる。河本さんのように扶養能力が十分にある人の家族にまで支給しなければならないとなれば、もう制度自体が成り立たず、本当に困った方に届かなくなります。

  現行の生活保護制度の問題は、大きく分けて3つだと思います。

 1つ目は働くインセンティブがないため、受給する立場になった人がそのまま閉じこもって出てこないこと。2つ目は、十分に受給資格があるのに、自治体の“水際作戦”で却下されてしまう「漏給」の問題。日弁連の2006年の調査では、行政が不正に断ったと思われるケースのうち、もっとも多いのが子供の扶養義務を盾にとったものでした。なかには断られた人が餓死するケースもあります。

 3つ目は年金制度との整合性の悪さ。国民年金の基礎年金が月6万5,000円程度なのに対し、生活保護が14万円程度であるのはバランスを逸している。生活保護の議論をするにあたっては、この3つをトータルで考えることが重要であり、そこをなおざりにして親族の扶養義務の強化にだけ焦点を当てるのは、家族のつながりを規定した「明治民法」の価値観に戻るような議論といわざるをえません。

 片山 しかし、いまでも日本人の65人に一人が受給しています。もちろんすべてが不正受給者とはいいませんが、65人といえば、「2クラスに1人か2人」がもらっているということです。私に寄せられる意見も、初めは河本さんに批判的なものが多かったのが、身近な人の例を告発する具体的な内容が増えてきています。

 今回のケースが「正当な受給」だとテレビで発言する弁護士やコメンテーターにつられて、生活保護に便乗する人が増えてしまい、「クラスに4人、5人」などということにならないために手を打つべき、というのがわれわれの主張です。

  それは正論ですが、いま進もうとしている方向は、本当に妥当なのでしょうか。私は「ワカモノ・マニフェスト策定委員会」のメンバーとして、今回の「社会保障と税の一体改革」について、数多くの有識者にヒアリングを行なってきました。しかしその過程で、生活保護問題について「親族の扶養義務を強化すべき」という意見を述べたのは、保守からリベラルまで、一人もいなかった。

 赤木 河本さんの場合も、彼が親を養う義務を負うのでなく、芸能人としての所得からきちんと税金を払い、その税金を国が再配分するかたちで扶養するのが正しいのでは。

  それが先進国の基本です。ビル・ゲイツ氏の父親や兄弟でさえも、もし貧乏になれば生活保護がもらえます。「ゲイツ氏が養わないのは、けしからん」という話を、アメリカ人がするわけがない。基本的に社会保障は、家族から切り離したうえで同じサービスを法的に受けられるようにするもの。その原資は、所得税における累進課税のようなかたちで、それぞれの能力に応じて負担する。運用上、いまの生活保護制度においては、親族の扶養義務は要件に入っていません。その流れを切ってまで、なぜ戦前の価値観に戻そうとするのか。

離婚や別居をしたほうが得!?


 片山 しかし、育ててもらった親に対する恩を子供に求めるのは、おかしな話でしょうか。民法の扶養義務も、「直系(親子)と兄弟姉妹」と、「三親等以内のほかの親族」は分けて考えられています。みたことのない人を養えとまではいっていません。支払い義務についても、能力に応じて「月に3万円くらいなら」などと変えればいい。

 もちろん、なかには「親からDV(家庭内暴力)を受けた」「私は育ててもらっていない」という人もいるでしょうが、それは「親子関係が破綻している」という扱いにすればよいでしょう。

 赤木 親からDVを受けたといっても、どうやって証明するかという問題があります。現行制度では、DVを受けた人が福祉事務所に対して事実関係を証明する必要がありますが、それはなかなか難しいことではないでしょうか。

 片山 実際にDVがあるのにそれを証明できないなら、制度自体に意味がないことになる。いまのDV制度は家のなかに入って調べることも認めているわけですからね。

 また今回、河本さんに続いてタレントの梶原雄太さんも、母親が1年3カ月にわたって140万円を受給していたことがわかりました。不思議なのは、彼の母が、彼所有の高級マンションに住んでいること。しかも馳浩衆議院議員が、国会のテレビ入り質疑で追及したように、その調べでは、同じマンションに公務員の兄がいて、隣のマンションに会社員の弟がいる。本来なら同居して、兄弟が2万円ずつ出せば養えるはずで、こちらのほうが河本さんのケースよりもおかしいかもしれない。

 このような事例も認めてしまっては、2012年の3.5兆円よりもさらに増える、という事態になってしまいます。

  ただ、道義的に問題がある人たちに対し、「親族で養ってください」といったところで、この問題は解消しません。そもそも自民党は、倫理規定である民法の扶養義務を、強制力のある実際の法規にしようとしていますが、これは、どの程度の基準を考えているのでしょう。

 片山 私が指摘したいのは、かつての日本にはあった「生活保護を受けるなんて、隣近所の手前恥ずかしい」「親子は本来、養うべきなのではないか」といった価値観が、徐々に失われつつあるという現実です。これまでの制度はこうしたモラルや親子の絆を信頼したうえで成り立つもので、それがなくなっているのなら、一定のルールを設ける必要がある、ということです。たとえば、「子ども手当」も世帯収入960万円以上の家には、支給しないことにしました。そういった基準を設定したほうがよいのではないでしょうか。また、扶養できない場合は、その説明責任を子供の側がきちんと果たすことにすれば、少しでも余裕のある子供は、かなりの割合で扶養を承諾すると思います。

  そこはアナログで個別に判断するしかないでしょう。本当に不正受給する人は、最後は親子の籍を抜いてでもやりますよ。

 片山 実際、生活保護の受給率が高い大阪では、離婚率が高いというデータがあるんですね。日本全国のうち、大阪だけ男女仲が極端に悪いとは考えられない。真の理由は、離婚や別居をしたほうが、多く生活保護費をもらえるとの風潮がはびこっていて、大阪における生活保護受給率の高さと、「ニワトリと卵」の関係になっているのではないでしょうか。

 つまり、いまの生活保護法のままでは、離婚や別居が助長されてしまうという弊害が出ているのです。

 赤木 具体的にはどのような事例があるのですか。

 片山 ある失業した若い男性が、雇用保険の期限を過ぎても再就職できなかったため、生活保護の申請に行きました。しかし親の持ち家に同居しており、親が月10万円程度の年金をもらっていたので、「とりあえず親のお金で生計を立てながら、就職活動を続けるように」といわれ断られました。

 それを知った第三者が「別居すれば、住宅扶助が出る」と教えました。その勧めに応じて親と形だけ別居した男性には、月に十数万円が支払われた。夫婦の擬似離婚も同じパターンです。生活の実態が変わっていないにもかかわらず、住居を変えただけで受給できるという、このような状態を放置してよいものでしょうか。

「家計簿のつけ方」から教える


 赤木 ただ、いまのケースであれば、受給者本人である息子にきちんとした働き口があり、うまく生活ができていれば問題はなかったわけですよね。そう捉えるならばこの例は、大きな意味で雇用の問題であるともいえるのではないでしょうか。

 片山 その意味では、雇用保険が切れたら一気に生活保護にまで落ちる現行制度に問題があるわけで、そうなる前に職業訓練を受けさせたり、住まいの補助を与えるようにすべきですね。元気に働ける世代が、40万人も生活保護を受けている現状は異常です。

  結局、いちばん重要なのは「就職して、自活できるかどうか」ということですよね。そのためには、いまは管轄が分かれている就労斡旋と生活保護行政を一本化して、ハローワークは厚労省から地方自治体に移す。そして生活保護を支給するのと同時に就労斡旋を行ない、理由なく断れば減額するといった、スウェーデンなどで行なわれているやり方を採用すべきでしょう。

 片山 じつは2009年に私たちがつくった自民党の提言で、求職者支援制度を設けました。7千億円の基金を財源としたのですが、その後の衆議院議員選挙でわれわれが負けて下野してから、そのフォローアップと制度化は、民主党政権の手に移ってしまい、昨年3月に恒久法化された求職者支援制度は、いままでに5万人しか面倒をみられていません。

 赤木 しかし受給者に職業訓練を施しても、必ず就職でき、安定した生活が営めるわけではないでしょう。職業訓練が就職につながるとは限らないのに、職業訓練を受けるだけで堂々と生活保護を受けられるなら、話はあまり変わらないと思いますが。

 片山 求職者支援訓練の実績としては、自民党政権時代の基金では、7割5分が何らかの形で就職をしたのですよ。

 赤木 ただ、それを「自立」という言葉で表現するには、少し注意がいるのでは。たとえば私自身、裕福ではなくバイトなどでなんとか食いつないでいる状態です。そうした立場からすると、生活保護受給者の自立支援ということで彼らが労働側に回ってきたとき、怖いのはそれまで働いていた人たちの待遇が悪くなること。労働力が増えても、雇用のパイが広がるわけではありませんから。

 片山 一方、生活保護の受給者には職業訓練以前に、生活訓練や「家計簿づけ」が必要な人が多いことも事実です。「一定の時間に一定の場所に行く」「与えられたお金を、ちゃんとやりくりして使う」などといった基本的なことができない人もいる。

 赤木 生活訓練の重要さという点に関しては、片山さんに賛成です。それこそ家計簿のつけ方をはじめ、家庭生活をいかに営むかを教えることが不可欠でしょう。

  このあたりについては、総じて識者の意見は一致しています。保守的な人は「本人の自立が重要」といい、いったん受給する立場になっても、そこからいかに自立に向かわせるかに重きを置く。一方、リベラルな人は「もっと包括的な支援が必要」といい、極端な話、自立する、しないも含め、本人の自由としています。

 僕は小さな政府主義者なので、後者は支持しません。やはり自立に注力することが大事で、そこは自民党も同じだと思います。

 片山 そうですね。自民党のスタンスは「自助・自立」を基本とする「社会保険」をもとにした社会保障制度を考えていく、ということです。しかしそのとき、現行制度のもう一つの問題が壁になります。それは最低賃金との兼ね合いです。低いスキルの人は就職しても最低賃金しかもらえず、この最低賃金が生活保護の支給額を下回る都道府県が9もある(昨年10月以降は3)。「働けば働くほど生活がよくなる」という話にならず、働くインセンティブをなくしてしまう。

  冒頭でも「一番目の問題点」として挙げましたが、そのような状況が続くと、受給者が引きこもって出てこなくなってしまう。自立を支えるケースワーカー制度を、さらに強化すべきでしょう。

 片山 実際、東京都で生活保護費を受け取りに来る人を一日みていると、いっせいに窓口にダッシュで取りに行く、十分働けそうな若い身なりのいい人がたくさんいます。本来は不要な人への支給をやめれば、おそらく1千億円以上の金額が捻出できるでしょう。そこで、城さんがおっしゃるように、その1千億円をケースワーカーの増員に使えばいい。このような提案に反発する勢力もいて、なかなか実行のハードルは高いですが、貧困ビジネスの膿も出す必要があります。

 赤木 支出が多いという状況を是正するなら、生活保護費用の約半分を占める医療費の全額控除をやめるべきではないでしょうか。自己負担を完全にゼロにするよりは、何割かは負担してもらうといったやり方のほうがいい。かたや医療費全額控除で、かたや保険料を払いながら3割負担では、両者の落差が激しすぎます。

  私もその提案には賛成ですね。

 赤木 現に大阪には、取りはぐれがないということで、生活保護者だけを相手にして「過剰診療」などを行ない、不当に国から医療報酬を得るクリニックもあるぐらいですから。ここにまず切り込むべきでしょう。

現金給付か、現物給付か


  システムの矛盾という観点でいえば、私が冒頭で挙げた「二番目の問題点」についても保守・リベラルを問わず多くの識者と問題意識が共通しました。すなわち、日本の生活保護システムは捕捉率が低く、餓死者が年間で数十人も出ているのは先進国としておかしい、というものです。

 片山 しかし諸外国と比較すると、日本の状況はまだましですよ。フランスは手厚い社会保障で有名ですが、それでも移民などセーフティーネットからこぼれてしまう人が多く、毎日のようにセーヌ川で、行き倒れになっている人たちを見かねて、民間の「心のレストラン」(生活困窮者に食料を配給する慈善団体)ができたくらいです。

 ドイツでもアメリカでも職業訓練やコミュニティーサービスなど、なんらかの義務づけがあり、しかも有期限。とにかく、なんの義務もなく簡単に現金だけ渡すことはしない、というのが世界の常識です。

 赤木 ならば代わりに、モノやサービスと交換できるクーポンを渡せばいいかというと、そこにも問題がある。クーポン自体が売買の対象になる可能性もあり、フードスタンプを給付している国では、フードスタンプを半額ぐらいで売っている人もいるようです。そもそもクーポンの給付自体、違憲という議論もあります。結果として生活保護受給者の生活水準が下がってしまうのではないでしょうか。

  私は現物給付については否定はしません。ただ、現金を渡すことで「バーゲンセールでモノを買う」など受給者が自分の頭で考えて、いろいろ工夫をするようになる。結果的にいえば、現金給付がもっとも効率のよいやり方かもしれない。

 片山 国会では消費増税をするタイミングで低所得者対策をすべきかどうか、という議論がなされましたが、これも生活保護と同じで、現金をばらまいてもしようがない。むしろイギリスを参考に、食料品などの生活必需品に軽減税率を導入するなど「節約が可能になる」仕組みをつくることを優先すべきというのが自民党の考え方で、中小・個人事業への記帳支援とセットで、負担のないようにやっていくべきです。

「働いたら負け」という空気


  税制については思うところがあるのであとで触れますが、私が憂慮しているのが、現在の非正規雇用労働者が50歳以降になったときです。おそらく彼らの少なくない人たちが生活保護受給者になるだろうといわれており、そこで必要になる予算は20兆円を下らない、という試算もある。いま生活保護費が増えているのも、その流れです。就職氷河期の少し前の1992~93年ごろに世に出た人のなかには、非正規雇用として働いている人が少なからずいます。彼らはいま40代後半で、そろそろ非正規の仕事がなくなってきている。

 赤木 たしかに不正受給よりも、今後、確実に増えていく彼らをどうするかのほうが問題です。これから40代や団塊ジュニアといったボリュームゾーンの世代で、非正規の仕事がなくなっていく。さらに生活保護受給者が労働させられることになれば労働力供給が増え、限られた非正規の仕事を奪い合うことになるのではないでしょうか。

  その対策として私が評価しているのは、民主党の提唱する最低保障年金制度や給付付き税額控除です。このようなかたちで生活保護、年金、失業給付を一本化して効率化する、大きなビジョンを示してほしい。一方の自民党は、既存の制度で問題ないとしていますが、これは大きな矛盾ではないか。

 片山 非正規労働者の問題は私たちも認識しています。あれは、1995年に日経連と連合が結託した「日本型ワークシェアリング」が始まりで、超円高下で国内に雇用の場をどうやって維持するか、という産業改革の問題だと思っています。

 それとは別に、最低保障年金を自民党や私自身が絶対に受け入れないのは、それが保険料をまったく払っていない人でも受け取れる制度だから。最近では民主党が「少し差を付けます」といっていますが、問題の根本的な解決にはなっていない。ただでさえ「働いたら負け」とでもいうような空気が漂っているなかで、それを許せば「働かざるもの食うべからず」をはじめ、これまで信じられていたものがすべて崩れてしまいかねません。

 赤木 私はそうは思いません。いま学生たちが就活を一所懸命やるのは、きちんと働いて、自分の生活を成り立たせたいからでしょう。もちろん不正受給を考える人もいるでしょうが、モラルハザードというほどは増えていない。だからこそ河本さんのケースが目立ち、批判が殺到するのではないでしょうか。

 そもそも、就活に成功して正社員になれば「勝ち組」というような現状を改善すべきではないか。いまや「正社員の職を得るための条件は、正社員であること」のような状況であり、フリーターや無職はなかなか採用されませんから。

  難しいところですね。これまでは「行儀のいい優等生」をめざせば就職先が見つかったけれど、今後は「30歳のフリーターが、どうやって安定した職を見つけるか」といった具合に、ロスト(本流を外れること)したところから、いかにサバイバルするかを学ぶことが大事になってくる。そのためにも、キャリア教育を小中学校で行なう必要があります。大学からでは遅い。これは生き方の問題ですから、ある日突然には変えられません。

 赤木 サバイバルの方法を教えるのは、職業訓練ではありません。もし訓練の内容を活かそうとすれば、ヨーロッパのように就職の年齢を後ろ倒しにするしかないでしょう。大学を出たら半年ぐらい自分のやりたいことをやり、その後、就職できるようにする。

 結局、職業訓練にしても生活訓練にしても、ほんとうに就職するために必要なものが何か、国の理解はかなりズレているのではないか、と思えてなりません。

どうする、これからの再分配


 片山 最後に、議論が続いている「社会保障と税の一体改革」においても、自助・自立を基本とした「社会保障制度改革基本法案」(自民党提出)を、民主党はほとんど丸飲みしました。法案の第二項「基本理念」のなかには「社会保障の目的である国民の生活の安定等は自らの生活を自ら又は家族相互の助け合いによって支える自助・自立を基本」とすると明記されています。つまりこの点に関して、民・自・公3党のコンセンサスは取れている。

  しかし繰り返しになりますが、生活保護制度を議論するうえでは、年金などほかの再分配制度とのバランスを考えなければならない。私が不安に思うのは、政府にそのようなビジョンがないことです。一体改革についてもいちおう評価はしていて、増税が必要なことにも賛同します。しかし、はたしてどこまで増税が必要なのか。

 私の試算では、いまのシステムを維持する場合、消費税率は30%必要になる。おそらくわれわれが社会保障を受給する十数年後に大幅カットになるか、財政がパンクするか、あるいは大増税が引き起こされるかのいずれかでしょう。ところが、この問題にどのように対処するつもりなのか、まったくみえてこない。

 赤木 そもそも経済が発展するほど、労働効率はどんどんよくなっていきます。労働が高度化するなかで単純労働は減っていきますから、そこからあぶれる人がどうしても出る。もう仕事を通じただけでは、富の分配はできなくなっているのです。消費税を増税するにしても、その富をいかに再分配するかが政府のいちばん重要なところだと思います。

 だから、このタイミングで生活保護の問題が注目されたことについては、私はよかったのではないかと思う。河本さんはその犠牲になってしまいましたが。

 片山 でも、いまでもテレビなどに出演されてますよね。また、国が社会保障の維持に責任がある以上、その場しのぎの増税であってはならないと思います。

 あくまでも、われわれがメスを入れようとしているのは、“エセ弱者”です。本当に困っている人はむしろ、保護から漏れないようにしたうえで、自立につながるようにしたいと思っています。現に政権与党のときには、高齢者にシルバー人材センターでの就労を斡旋したり、ある資格の2級をもつ人に1級の資格を取らせて就職しやすくするといった取り組みをしてきました。

 そのような支援をきちんと行ない、研修をきちんと受けているかどうかも確認する。そのうえで、本当に「自活する意思のある人」に向けてこそ、社会保障を行き渡らせるべきである、と思います。


片山さつき(かたやま・さつき)参議院議員 1959年、埼玉県生まれ。東京大学法学部卒業後、大蔵省(現・財務省)入省。2005年、自民党より衆議院議員選挙に立候補し、初当選。以後、経済産業大臣政務官、党広報局長などを歴任。10年より現職。著書に、『日本経済を衰退から救う真実の議論』(かんき出版)などがある。

城 繁幸(じょう・しげゆき)Joe's Labo代表取締役 1973年、山口県生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通に入社。同社退社後に刊行した『内側からみた富士通「成果主義」の崩壊』(光文社)が話題に。その他の著書に『若者はなぜ3年で辞めるのか?』(光文社新書)、『7割は課長にさえなれません』(PHP新書)などがある。


赤木智弘(あかぎ・ともひろ)フリーライター 1975年、栃木県生まれ。2007年、月刊誌『論座』(朝日新聞社)に発表した論文「『丸山眞男』をひっぱたきたい」が注目を集める。現在はフリーライターとして、非正規労働者や弱者の問題を中心に提言を行なう。著書に、『若者を見殺しにする国』(朝日文庫)などがある。