山本隆三(国際環境経済研究所所長、常葉大学経営学部教授)

 11月16日号の週刊アエラは、「上流化する公務員」との特集を掲げていた。公務員の上流意識が3割に達し、民間企業の正社員の2倍以上との内容だ。記事のなかでも、公務員が優雅な生活を送っている姿が描かれていた。本当に公務員はそんなに優雅なのだろうか。
内閣府が入る中央合同庁舎第5号館=東京・霞が関
内閣府が入る中央合同庁舎第5号館=東京・霞が関
 私が知っている公務員の姿とは随分差があるように思う。夜遅くまで残業する中央官庁の公務員、地方公務員を見ているとそんなに優雅にはみえないからだ。「アエラ」によると公務員で「上流」と思う人は32%、民間企業の15%の2倍以上だ。中流は公務員48%、民間企業40.5%、下流は公務員20%、民間企業39.5%だ。ちなみに公務員で上流と思う人は10年間で2倍以上になっているとのことだ。

 この10年間の地方公務員と民間企業の給与の推移を図-1に示した。総務省の地方公務員給与のデータは毎年4月の全ての手当を含む支払額、国税庁の民間企業のデータは、賞与を除く年間支払額を12で割ったものなので、どちらも全ての手当を含む月額給だ。公務員の給与は相対的に民間より多いものの、この10年では民間企業以上の下落率だ。給与が下落しながら上流と思う人が増えているのは不思議な感じがする。これには理由がありそうだ。



 民間の賞与額を含めた年収額と地方公務員の月額給の推移を比較すると図-2の通り、民間の年収額は大きく変動している。地方公務員の年収に関する公式データはないが、賞与の額は毎年それほど大きくは変わっていないだろう。公務員年収は相対的に安定している筈だ。要は、安定していることが、公務員が上流化していると感じている理由のようだ。

 幸福感は、周囲との比較の結果による相対的な要素が大きいことが分かっている。公務員給与は下落していても、民間給与との比較で相対的に安定していれば、上流と感じる人が増えるということだろう。公務員の給与が増え、生活がよくなっているわけではなく、相対的な問題なのだ。民間企業の給与が、大きく変動すること、下落していることがよほど大きな問題だ。



 「上流化する公務員」ではなく、図-3の民間給与額の推移をみれば、「下流化する日本の働く人」が正しいような気がする。どうすれば、下流化を止められるのか。図-4の業種別賃金にヒントがある。平均より給与が高い業界の雇用増加が重要だが、どうすれば伸ばすことができるかだ。

 平均より給与が高い業界は、給与は付加価値額から支払われるのだから、当然だが1人当たりの付加価値額が大きい産業になる。図-5の通り、1人当たり付加価値額が大きい業界は日本では製造業を含め設備産業に多い。設備により生産性をあげることができるからだろう。


 下流化を止めるには、これらの産業の成長が重要だ。製造業を中心とした企業が生産性改善の設備投資を行い、さらに研究開発投資を増やすことにより雇用の増加を図ることだ。日本企業の研究開発投資は最近漸く増加傾向にあるが、デフレ期間中の研究開発投資は表の通り、主要国中最低レベルまで落ち込んでいた。韓国企業に差をつけられたのには理由があるのだ。


 装置産業の成長には、原発の再稼働による安価、安定的な電力供給が必要だ。図-6が示す通り装置産業の電力コスト比率は相対的に高い。「アエラ」は面白おかしく、上流化する公務員と記事にするのではなく、その背景にあるものを深く分析する必要があったのではないか。朝日新聞系列の雑誌が、「安価、安定的な電力供給が必要だから原発の再稼働を」との記事は書けないのだろうが。(山本隆三 ブログ「エネルギーの常識を疑う」  2015年12月10日分を転載)