小林信也(スポーツライター)

 Jリーグを代表するミッドフィルダー・中村俊輔選手のジュビロ磐田移籍が1月8日、正式に発表された。国内では横浜Fマリノスひとすじだった中村俊輔の移籍は、マリノスのサポーターはもとより、サッカー界全体に動揺をもたらした。

 今年39歳になる中村俊輔の決断。当初から10年の期限が示されていたとはいえ、みなとみらいにあったマリノスタウンが撤退。2014年にグローバルパートナーシップを締結したシティ・フットボール・グループの意向がチーム運営に強く反映し、中村俊輔が信頼を寄せるフロント首脳も次々とチームを去る背景もあっての決断だ。

ジュビロ磐田の新体制発表記者会見でポーズをとる 中村(右端)、
名波監督(同2人目)ら=1月13日、静岡 県磐田市のヤマハスタジアム
ジュビロ磐田の新体制発表記者会見でポーズをとる 中村(右端)、 名波監督(同2人目)ら=1月13日、静岡 県磐田市のヤマハスタジアム
 一方、ジュビロ磐田は、昨シーズン第1ステージで司令塔を務めた小林祐希を8月、オランダ一部リーグのエールディヴィジ・SCヘーレンフェーンに送り出した後、苦しい戦いが続いた。名波監督が新しいシーズンを戦う司令塔に、かつて日本代表で共にプレーした中村俊輔に白羽の矢を立てた。中村俊輔もまた、名波監督のオファーに応えて「マリノスひとすじ」を破り、新たな挑戦を決めた。

 サッカーのサポーターは野球との比較など望んでいないだろうが、長く野球に慣れ親しんでいる立場からすると、このニュースは多くの意味で野球界とは違う、新しい日本スポーツの潮流を感じさせる出来事でもある。

 野球に比べて、プロサッカー選手は自由だ。自分がプレーするチームは実力さえあれば自分で選べる。もちろん、チームからのオファーがあってこそだし、契約期間内は自由に移籍はできないが、契約期間が最長5年と短い。野球の場合は長く契約に縛られてサッカーほど選手に選択の自由はない。フリーエージェントの権利を得てようやく選択権が得られる。そもそも、Jリーグには入団に際してドラフト会議がない。

 名波監督がチームの戦力より小林祐希の将来を優先して、シーズン途中でオランダに送り出すというのも、野球界ではあまりない発想だ。取材を通じて、野球界とサッカー界のこの辺の感覚の違いも以前から強く感じている。

 あるジュニアチームの指導者は「うちの選手がもし格上のJリーグ傘下のジュニアチームに誘われたら喜んで送り出します。サッカー界には、日本のサッカー界全体で才能を伸ばそうという気風があります。どうしても自分のところで、という意識より、その選手にとって最良の環境でプレーすべきだと、心ある指導者なら当然思っているはずです」このような言葉を、野球関係者から聞いたことはあまりない。自分のチームをいかに強くするか、野球界にはそちらの思考が強く根ざしている。