宮脇睦(ITジャーナリスト)

 籾井勝人NHK会長が発表した「受信料値下げ」に「再任狙いか」との邪推が駆け巡った。しかし、籾井会長は退任し、新会長へとバトンが渡される。籾井会長については、就任直後より様々な舌禍騒動を起こし、釈明における「キレる」かの態度に眉根を寄せるものだが、果たして批判は正しかったのか。とりわけ「独裁」との批判が妥当ではなかったことは、就任以降のそのNHKの報道から明らかだ。

衆院予算委員会で答弁席に向かうNHKの籾井勝人会長(右)
質問者の民主党の階猛氏(左手前)が速く歩くよう促した
=2015年2月20日、衆院第1委員室
衆院予算委員会で答弁席に向かうNHKの籾井勝人会長(右) 質問者の民主党の階猛氏(左手前)が速く歩くよう促した =2015年2月20日、衆院第1委員室
 会長就任直後に、当時の理事全員に日付のない辞表を提出させた。言論封殺を目的だと定義し「独裁」とレッテルを貼る。とりわけ「安倍政権のお友達人事」と揶揄していた報道機関、有識者が声高に叫んでいた。籾井氏は記者の追及に「よくあること」と答えたものの、事例を説明できなかったことが、火に油を注ぐ形となった。だが、小川洋福岡県知事は平成23年9月13日の定例会見で、副知事の退任の説明として、県議会終了後に辞表を受け取っていたと説明し、知事就任時にも前任者から辞表を受け取っていたことが福岡県のホームページで確認できる。

 また、韓国の事例ながら『現代重工業、役員260人が一括で辞表提出(中央日報)』というものもある。「よくあること」かどうかはともかく実例はあるのだ。実際には労働法務からの問題を孕むとはいえ、籾井氏に「レッテル」を貼り、言葉尻を捉え「失言」を待っていたのならば、それはジャーナリズムではなく「虐め」だ。あるいは説明責任を理由に、権力者からの言葉を待つだけなら「甘え」だ。

 籾井氏の代表的な「慰安婦発言」からは、日本がなんでも悪いと「自虐史観」からの距離を置く姿勢が確認できる。慰安婦についての記者からの質問に「今のモラルでは悪いんですよ」と断りつつも、「戦争をしているどこの国にもあった」と事実の指摘に、やはり特定のマスコミは半狂乱となった。仮に籾井独裁政権下のNHKならば、彼の発言に沿った報道が相次ぐはずだが退任間際の今になっても確認できていない。むしろ逆だ。

 ウィキペディアには『NHKの不祥事』なるコンテンツがあり、それだけNHKに不祥事が多いわけだが、籾井氏の就任以降、書き加えられたのは籾井会長の行動の他には、佐村河内守氏によるゴーストライター騒動に、NHKスペシャルの取材班が加担していたことや、社員と子会社によるそれぞれの横領事件と「貧困騒動」で、籾井氏の歴史観が反映されている形跡は確認できない。