渡邉哲也(経済評論家)

 NHKの籾井勝人会長ら執行部が2016年11月8日に行われた経営委員会で、50円程度の値下げを提案したが、これが却下され、提案した籾井会長は経営委員会で信任が得られず、会長職を解かれ、経営委員会のメンバーである上田良一氏が新会長に選任された。これはNHK内での政治の結果といえるものだが、この専任には大きな問題も内在している。

 まず、なぜ籾井会長が50円の値下げを提案したのか考えてみたい。実は、NHKは現在の受信料でも、年間400億円以上の余剰金が出ていたわけである。これを平成11年から渋谷放送センターの建て替え費用として積み立て、余剰金を見えない形にしていたのであった。
定例会見に出席したNHKの籾井勝人会長=東京都渋谷区のNHK放送センター
定例会見に出席したNHKの籾井勝人会長=東京都渋谷区のNHK放送センター
 すでにこの積立金は15年度末現在で約1627億円になっており、積み立てが終わる来年度以降はこれが余剰金として表面化することになっていたわけである。籾井会長はこれを利用者に還元すべきとし、値下げを主張したわけなのだ。そして、今回、経営委員会は将来のスーパーハイビジョン投資(4K、8K)などのために温存すべきとこれを否定した構図になっている。

 この判断は一般的な民間企業であれば決して間違った判断とは言えないものである。将来の投資計画に合わせ内部留保を行う事はステークホルダーである株主や従業員、取引先に対しても誠実な対応であるといえる。

 しかしNHKの場合、一般的な民間企業と違うわけである。NHKは非営利を前提に放送法により受信料収益を保証された団体であり、民間企業と違い競争にさらされていないのである。また、経営委員は執行部を監視するための組織であり、監視組織から経営者である会長を選ぶというのは明確な利益相反(COI)に該当すると考えられるわけだ。

 また、余剰金に関しても、それが適切な額であるか疑念が生じる部分もある。なぜならば、NHKの職員の平均給与は1150万円程度(2015年)であり、手厚い福利厚生費などを含めると1700万円を大きく超える水準にあるのだ。また、番組制作費も民放の2倍程度であり、この部分に膨大な数のNHK職員やOBが関係する関連会社が寄生しているのである。本来、経営委員は、経営を監視し関係会社との関係を見直しコストをカットし、無駄を省くのが主たる仕事でなくてはいけないわけだが、これが機能しているとは思えない状況なのである。

 NHKの予算は国会の承認案件になっており、予算の適正化を求めるのが国会の役割であるわけだが、これも適正に機能していない状態にある。なぜならば、政治家はスキャンダルなどメディアを恐れる傾向にあり、メディアに手を付けることを嫌うのである。また、監督官庁である総務省も、直接的な天下りはないが関連団体等を天下りに利用しているわけである。だから、監視部分の機能不全が起きているのである。