――ご著書でも触れられていますが、「江戸」をたんに「Edo」とローマ字表記にしただけでは、外国人に意味が伝わるはずがない。まさに“お役所仕事”で、そうした例が多いとすれば、残念というほかありません。

アトキンソン そもそも、翻訳は必ずネイティブのチェックを受けるべきです。しかも、その人は日本の文化や歴史に詳しくなければならない。文化財の解説は、その辺りの留学生に気軽に頼んでいい仕事ではないはずです。繰り返しますが、こうしたお粗末な例が日本にはあまりに多い。

 ――アトキンソンさんからすれば、日本は当たり前のことができていない、ということですね。受賞作では、京都の二条城には詳しい展示パネルがないため、外国人にはその「すごさ」が伝わらないと書かれていました。その後、何か改善の動きがありましたか。

アトキンソン 私がいつも二条城の例を出すため、先方もそうとう意識されているようですね(笑)。先日行ってみたら、見事に展示パネルが増えていました。ただ、「虎の間」を説明するのに「虎と豹の絵が描かれている」というような説明だけでは不十分です。それは見ればわかります(笑)。

 ――さらに文化的な背景まで詳しく説明する必要がある、ということですね。

アトキンソン 案内板をつくることだけが目的になってしまっているのではないでしょうか。結果的に、日本の歴史文化をきちんと学べる場所になっていない。じつにもったいないと思います。

 ――最近は、文化施設や自治体も観光のために熱心にホームページをつくっているようですが。

アトキンソン ええ。しかし、私が信じられないと思うのは、それが時として10年以上前の技術によって制作されていることです。地図をクリックすると、いきなりPDFが出てきて、これはいったい、いつの時代のホームページなのか(笑)。日本の各観光地でつくっているから、自分のところでもやりました、というだけの話です。なぜ、そうなってしまうのか。初めから「戦略的に考えて効果を出せ」と指示していないからでしょうか。

 ――ヨソでもやっているから、ウチもやる。日本人特有の横並び意識。耳の痛いご指摘が続きます。

アトキンソン ある日本の旅行代理店は、集客のための文化イベントをフランスで実施しています。しかし、発信の仕方も広告も、全部日本の会社がやっている。私はよくいうんです。「逆を考えてみてください」と。もし、フランスの大学で日本語学科を出たフランス人がネイティブのチェックも受けずに日本語で広告をつくり、それまで日本に来たことのないフランスのイベント会社が日本で「フランスに来てください」というイベントを行なった場合、日本人はどう思うでしょうか。「馬鹿にされている」と感じるはずです。それと同じ事を、日本の旅行代理店はフランスでやっている。日本は観光に人もお金も掛けています。しかし、中身が十分に伴っていない。だから効果が出ない。私にいわせれば、まだまだ本気になっていないんです。