石平(評論家) 黄文雄(評論家)


『「トランプ大統領」から始まる中国大乱』より

トランプが台湾総統との異例の電話会談をした意味


 2016年11月17日、安倍首相とトランプ次期アメリカ大統領がニューヨークのトランプタワーで初会談を行いました。トランプは他国の首脳から早期の会談要請が殺到するなか、安倍首相との会談を最優先させたといいます。

 しかも自宅に招くという厚遇ぶりで、日本を重視している姿勢を見せました。当然ながら、大統領選挙のときに見せた暴言も日本批判もなく、会談後に安倍首相が「信頼できる指導者だと確信した」、トランプが「素晴らしい友好関係を始めることができてうれしい」と述べるなど、会談が有意義であったことを強調しています。

会談前に握手を交わす安倍首相とトランプ次期米大統領。奥は娘のイバンカ氏と夫のジャレッド・クシュナー氏=11月17日、ニューヨークのトランプタワー(内閣広報室提供)
会談前に握手を交わす安倍首相とトランプ次期米大統領。奥は娘のイバンカ氏と夫のジャレッド・クシュナー氏=11月17日、ニューヨークのトランプタワー(内閣広報室提供)
 安倍首相の素早い動きには、中国も驚いたと思います。安倍首相は、トランプの当選が確定した日の翌朝すぐに電話で祝意を伝えました。おそらく中国はそれに焦ったのでしょう、11月9日、CCTV(中国中央電視台)は習近平主席がトランプと電話会談したというニュースを流しました。ところが、トランプ側から「していない」と否定されてしまいました。安倍首相が電話会談した以上、習近平も会談したことにしないと、大国の指導者としてのメンツが潰れると思ったのでしょう。

 14日になって実際に電話会談をしたようですが、いずれにせよ、赤っ恥をかかされたかたちになりました。

 さらに12月2日(アメリカ時間)には、トランプは台湾の蔡英文総統と電話会談しました。これは1979年のアメリカと台湾の断交以来初めてのことです。しかも、自身のツイッターで「台湾総統が今日、私に、大統領選勝利に祝意を表したいと電話をくれた。ありがとう!」と書き込みました。「ThePresident of Taiwan」と、あたかも独立国家の元首のように扱っていたのです。

 当然、台湾では大きく報じられ、トランプへの期待が非常に大きくなっています。安倍・トランプ会談について、中国共産党の機関紙である「人民日報」の国際版「環球時報」は「朝貢だ」と書きましたが、蔡英文との電話会談については王毅外相が「台湾側のくだらない小細工だ」と嫌味を言いました。これは中国のパニック状態を象徴しているのではないかと思います。

 中国はかなり衝撃を受けたのではないでしょうか。なにしろトランプは、数十年来の絶対的タブーを破ったのですから。

 即座に不快感を表明し、アメリカにも抗議したといいますが、アメリカ政府になのか共和党になのか、どこに抗議したのかはよくわかりません。しかも、王毅外相は台湾を批判していますが、トランプのことは批判していません。トランプと衝突するのを避けたのでしょう。あくまで台湾が仕掛けたものだというスタンスです。

 しかし、トランプはかなり中国を意識した行動をしていると思います。「自由時報」(2016年12月3日付)によれば、当日はシンガポールのリー・シェンロン首相、フィリピンのドゥテルテ大統領、アフガニスタンのガーニ大統領とも会談していますが、ツイッターには蔡英文のことしか掲載されていないそうです。これは意図的にやっていることでしょう。中国の反応を見ているとしか思えません。