岡崎研究所

  米戦略国際問題研究所(CSIS)のアルターマン副理事長兼中東担当部長が、同研究所のウェブサイトに9月17日付で掲載された論説で、現在の米国の対「イスラム国」戦略は、軍事力に頼り過ぎ、外交、政治、情報などを含む包括的な戦略にすべきである、と論じています。

  すなわち、オバマ政権は、シリア・イラク問題を軽視していたが、結局、その問題への対応を迫られている。二人の米国人が斬首された後、「イスラム国(IS)」に対する新しい政策が打ち出された。軍事的側面が強い政策である。しかし、ISには軍事的手段だけでは勝てない。外交、諜報、経済、イデオロギー、法執行、政治の手段が必要である。時間はかかるが、それしかない。

 米国は、結果が出やすい軍事手段を重視する傾向にあるが、オバマ政権は、次のように、戦略を調整する必要がある。

 第1:戦場でISを敗北させるのではなく、内部から崩壊させることを目的とすべきである。そのためには、イラクやシリアでの紛争の政治的解決を促進し、スンニ派の不満を軽減すべきである。それには、軍事力行使とは逆の措置が必要だろう。

 第2:有効な連合を形成すべきである。同盟国には、軍事的貢献だけではなく、過激主義の正統性を否定する役割を果たしてもらうことも重要である。

 第3:米国が支援する反政府勢力に適切な役割を果たしてもらう。彼らは、完全勝利ではなく、紛争終結を交渉する力を持てれば良い。

 第4:米国は、この紛争を通じてイランやシリアとの関係をどうするか、ビジョンをもつべきである。両国に協力を頼む必要はないが、ISとの並行闘争を良い方向につなげる方が良い。

 オバマは演説で2度もISを「弱体化させ破壊する」と述べたが、軍事面を重視し過ぎである。軍事手段は、勝利のためには不十分である、と論じています。

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 この論説は、オバマの対IS戦略が、軍事面を重視し、他の面をおろそかにしていると言っていますが、これは評価の問題で、必ずしも、軍事的手段を過度に重視している戦略とも思えません。むしろ、色々な方策を使おうとしているように見えます。

 例えば、イラクでのスンニ派を冷遇したマリキ首相を退陣させるなど、アルターマンが主張しているような外交手段もとっています。有志連合では、今は、軍事貢献が主な議題になっていますが、穏健イスラム諸国は、過激イスラム主義の正統性の否定を自らの問題として取り組んできた経緯があります。IS対策は、外交、情報、資金の締め上げを含む経済的手段など、包括的なものであるべきという、筆者の意見に賛成ですが、オバマ政権も、そうした方向をとっているのではないかと思います。

 ISは、アルカイダやその系列の諸組織とは異なります。アルカイダなどは、秘密の「細胞」(構成要素となる小組織)を各地に置いたネットワークであり、各「細胞」の所在や中央司令部の所在を突き止めることも困難でした。したがって、攻撃も容易ではありませんでした。しかし、ISは「国家」と称している通り、領域国家を目指し、その萌芽をシリア、イラクの領土内に作っています。ラッカ市を本拠にしており、行政課税もしています。戦闘組織も3万ぐらいの兵士を有する軍事組織で、装備も優れたものを持っています。これは、通常の国家に対するように対応することができますし、そうすべきでしょう。支配領域を狭める軍事的攻勢は、ISの「国家」としての権威を大きく損ない、その求心力も傷つけることになります。対IS戦略は、ISとは何かを考えて立てられるべきでしょう。