【前向きに読み解く経済の裏側】



塚崎公義 (久留米大学商学部教授)


 トランプ次期大統領候補の就任が近づいて来ました。具体的な政策は出揃っていませんが、選挙中の発言等からは、中国に対して高率な関税を課す可能性は比較的高いと言われています。そうなれば、中国が報復関税を課すことになり、米中の貿易戦争に発展しかねません。そうなった時に何が起きるのか、頭の体操をしてみましょう。

米国の対中輸入額は輸出額の約4倍


(iStock)
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 米国の対中輸入額は、対中輸出額の約4倍あります。ということは、米国の対中輸入制限と中国の対米輸入関税が同時に課された場合、単純に考えて、中国の受ける打撃の方が4倍大きいということを意味しています。中国のGDPは米国よりも小さいので、打撃額のGDPで比べれば、その差は更に大きくなります。

 金額だけではありません。中国の対米輸出品が労働集約型製品で、米国の対中輸出品が技術集約型製品だ、という点も両者の打撃の大きさに影響します。

 まず、米国の中国からの輸入品について考えてみましょう。米国は、別の国から輸入することもできますし、米国内でも生産することができます。現在米国が中国から輸入しているのは、「安いから」という理由だけなので、関税がかかれば対中輸入は激減し、他国からの輸入と国内生産が増えるでしょう。国内生産が増える分は、米国内の雇用を増やします。「米国の人件費は高いので、中国から輸入されている物を米国内で作るはずがない」、と考える人もいるでしょうが、途上国で労働集約的に作るか米国内で機械を使って作るかの比較なので、中国と米国の生産コストの差は賃金格差ほど大きくはないのです。

 一方で、米国の対中輸入関税が中国に与える打撃は大きなものとなります。労働集約型製品の輸出が大きく落ち込むと、中国人労働者が大量に失業することになるからです。

 次に、中国の米国からの輸入品について考えてみましょう。中国が米国から輸入しているのは、「単に安いから」ではなく、国内では生産できないから、という理由が主です。国内で生産できるならば、賃金が安い中国国内で生産した方が得なのに、米国から輸入しているのは、国内で生産できないからなのです。

 従って、中国が対米輸入関税を課したとしても、中国の輸入が減って国内生産が増えるわけではありません。日本や欧州からの輸入が増えるだけです。中国としては、自国製品に関税をかけた米国に対する報復として関税を課すことで、米国に打撃を与えることはできますが、それにより自国が利益を得るわけではないのです。米国の雇用は対中輸入関税で増えるのに、中国の雇用は対米輸入関税でも増えないのです。