髙岡豊 (中東調査会上席研究員)

 これまで「イスラム国」を放任し、成長させてきた国が焦りをみせている。2014年8月、アメリカはイラク、シリアで大攻勢をかけていた「イスラム国」に対しイラク北部での限定的空爆を開始した。爆撃の範囲は次第に拡大し、イラク西部のアンバール県でも「イスラム国」の拠点が空爆された。9月にはフランスも空爆に参加し、軍事行動やその支援に参加する国も増加した。

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フランスで行われたデモ。世界が「イスラム国」の動向に注目している
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 アメリカはさらに、9月22日にはシリア領内でも「イスラム国」を含むイスラム過激派諸派への空爆を開始し、これにはサウジアラビア、バーレーン、カタール、UEA、ヨルダンも参加した。

 アメリカは「イスラム国」を攻撃するにあたり、「国際同盟」の形成に腐心した。これは、イラクやシリアの紛争で特定の勢力に肩入れしているとの批判を避けるためと、今や「イスラム国」の問題が単独の国家や狭い地域の問題ではなく、世界規模での対策を必要としているからである。

 「イスラム国」に国際的な対処が必要なのは、同派が中東地域などにおける既存の国家や国境を欧米諸国の侵略による押し付けとして否定していることもさることながら、より重要なのはイラクとシリアにおける「イスラム国」の活動のため、世界各地で「ヒト、モノ、カネ」すなわち資源が調達され、「イスラム国」に送り込まれているからである。

 例えば、「イスラム国」に参加する非イラク人・非シリア人の戦闘員の数は1万5000人以上と推定されているが、彼らの国籍は80カ国以上にわたるとされている。また、彼らはイラク軍やシリア軍から奪取した物とは異なる高性能の兵器で武装し、そうした兵器にはアメリカ製の兵器も含まれる。

 さらに、同派にはアラビア半島諸国の様々な個人・団体から多額の資金が提供されている。こうした資源の大半は、イラク、シリアと国境を接するトルコを経由してほとんど規制や取り締まりを受けることなく「イスラム国」に提供された。

中東諸国にとっての「イスラム国」とは

 従って、「イスラム国」の打倒や抑制のためには、イラクやシリアでの軍事行動ではなく、同派への資源供給の遮断こそが最優先課題となるべきところである。しかし、トルコが上記の「国際同盟」の活動に積極的には応じていないことに象徴されるように、アメリカを含む諸国が「イスラム国」への資源の遮断に真剣に取り組んでいるようには見受けられない。

 「イスラム国」はその前身となる団体が04年には既にイラクで活動しており、その存在そのものは新奇ではない。それが現在のように勢力を伸ばした原因として、イラクの政情の混乱とシリア紛争を挙げることができる。特に、11年の時点で、「イスラム国」は本来の活動地のイラクで勢力が衰退しており、これを回復する契機としてシリア紛争が重要である。

 シリア紛争では、同国のアサド政権を打倒しようとする反体制武装勢力が、その思想や素性を詮索されることなく肯定され、彼らがシリア国外で資源を調達することが黙認・奨励された。資源の大半は、トルコ経由でシリアの武装勢力に流入した。

 「イスラム国」はこうした風潮に便乗し、当初は「ヌスラ戦線」というフロント組織を通じて、13年4月以降は「イラクとシャームのイスラム国」と名乗り、外部から寄せられる資源の主な受け取り手となった。イラクで地元の支持や活動のための資源を失った「イスラム国」は、シリア紛争で欧米諸国や一部アラブ諸国、トルコが反体制派を支援したことに乗じ、勢力を回復させた。

 MILITANT WEBSITE/AP/AFLO
「イスラム国」の最高指導者アブバクル・バグダディ氏 (MILITANT WEBSITE/AP/AFLO)
 「イスラム国」への資源の供給元となった諸国には、外交・国際関係上の利害や目標と共に、それぞれの国内事情も影響を与えていた。例えば、「アラブの春」の政治変動を経たチュニジアでは、釈放された元政治犯の中にイスラム過激派の活動家が多数含まれており、彼らがモスクを拠点にシリアへの戦闘員の勧誘・送り出しに関与した模様である。

 また、リビアでもカダフィー政権放逐の際に乱立した民兵の一部がシリアに転戦することが、リビア国内の混乱を回避するため黙認されたようである。サウジアラビアやクウェート等の湾岸諸国でも「イスラム国」などのための資源の調達が半ば公然と行われ、著名な政治家やNGOが関与した。

 各国はこうした動きに対する本格的な取り締まりに総じて及び腰だったが、それには各国が取り締まった場合はシリア紛争でイスラム過激派支援に費やされる資源が自国での政情・社会不安につながることを嫌い、こうした活動を放任していた側面があることを見のがすことはできない。

 U.S.AIR FORCE/REUTERS/AFLO
米国、アラブ有志国が行った空爆 (U.S.AIR FORCE/REUTERS/AFLO)
 最近では、欧米諸国出身の「イスラム国」戦闘員の問題が治安上の不安要素として注目されているが、欧米諸国では自己実現の方途を見出せない不満層がイスラム過激派の勧誘対象となっている模様で、ここでも本来送り出し国が取り組むべき社会問題が紛争地であるイラクやシリアに転嫁されている部分がある。

 確かに、「イスラム国」の資源供給元となった各国では、政府の政策としてその「イスラム国」支援が行われたわけではない。しかし、「イスラム国」のための資源の調達が、各国の不作為の下で拡大したことも事実である。

 9月25日、国連安保理は「イスラム国」などに加入しようとする人員の移動を阻止する立法を加盟国に義務付ける安保理決議2178号を採択した。ここでようやく、「イスラム国」への資源供給への対策が端緒についたのである。

 ただし、「イスラム国」対策で焦点となる諸国はトルコ、湾岸諸国、チュニジア、リビアなどであり、ここに、シリア、イラン、イラクなど上記の諸国と利害が対立する国々といかに連携するか、という難題も関連してくるため、各国が短期間のうちに足並みをそろえて対策を取るのは難しい。

今後も続く「対症療法」

 それ故、今後も「イスラム国」対策は対症療法的・逐次的に講じられることが予想される。そして何よりも、アメリカを含めこれまで「イスラム国」を放任し、成長させた諸国がそうした態度を根本的に改めることなしに「イスラム国」への攻撃に乗り出したという皮肉な現実こそが、「イスラム国」対策の長期化は必至である、との見通しの背景にある。


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