塚口直史(グローバルマクロ戦略ファンドマネージャー) 

 トランプ後の世界について、世間の評論家が保護貿易や軍事バランス云々を喧々諤々(けんけんがくがく)していますが、今後の世界の流れを決定していく重要なドライバー(駆動力)、つまり、 今後の世界の動きを予測するにあたって最も重要なポイントは、トランプ大統領の発言がどのように国際金融市場、特に債券市場に影響を与えるかどうかだと実務者である筆者は考えています。

 今、世界のGDP総額約8000兆円(2015年末)の6倍以上にあたる5京2000億円相当額(左記同年)のデリバティブ(金融派生商品)が世界に存在します。そのほとんどが債券市場に関連するデリバティブとなっており、しかもそれは2000年以来この10数年で5倍以上に膨れ上がり、いつ破裂してもおかしくない状況にあるからです。

トランプ・シフトより
『トランプ シフト これからの世界経済に備える14のこと』 (塚口直史著、朝日新聞出版)より

 記憶に新しいところでは昨年の2月に「ドイツ銀行ショック」と言われる世界株価同時下落局面が示現しました。これはドイツ銀行が保有するデリバティブ総額が当時のドイツのGDP総額の25倍を超えていたところに、デフレに苦しむドイツ銀行が過小資本にあるのではないかという噂が持ち上がり、国際金融市場全体に激震を与えたのでした。

 この10数年間、特に2008年の金融ショックである所謂リーマンショック以降、デフレ対応として、債券市場に優しい低金利政策を世界の主要各国が採用してきたことに後押しされてクレジットが高い国債をはじめとする各種固定利付債券への需要が世界中で急激に拡大してきました。その過程でデリバティブ市場は債券市場に由来するリスクをヘッジする商品を提供しつつその市場規模が加速度的に拡大してきた背景がありました。

 トランプ政権の誕生を今般受けて、アメリカを中心として世界各国で採用されてきた低金利政策の行方が混沌としてきていることは債券市場にとってとてもネガティヴな事象として受け止められてきています。

 今年に入ってから急激にドル安に転じ始めているのは、トランプ政権誕生が近づくにつれて米国でのインフレを懸念する動きが台頭してきているからだと言って間違い無いと思います。

 経済学的には、表面上の金利差ではなくインフレ格差で通貨価値は決定されていきます。今後の米国の物価が他国以上に上昇すると見ているからこそドル安が進展してきているということだと筆者は考えます。

 低迷する物価状況が常態化していくという「ニューノーマル」という言葉が昨年まで流行っていましたが、今後は物価が大きく上昇するという「インフレ」への懸念がトランプ政権下で醸成されてくることはトランプ氏の発言を見ていても驚くことではありません。